出版物の部数のいろいろ

 亀山郁夫は「カラマーゾフの兄弟」の新訳が何十万部も売れたロシア文学者だ。しかし亀山郁夫佐藤優「ロシア 闇と魂の国家」(文春新書)という対談集を読むと、売れない本が多かったらしい。

亀山郁夫  ぼくは、きっと自分の能力もあるのでしょうが、初めから文学研究というのが、まったくわからなかった。結局、テクストよりも他者の人生に関わるという立場から、伝記研究をメーンにやってきた。たとえば、最初に出た「甦るフレーブニコフ」という本などは、初版はわずか1,000部です。増刷は100部で、それを売り切るのに、10年かかった。そんな仕事にどれだけ社会的な意味があるのか、ということです。その後、マヤコフスキーの伝記を書きましたが、これもたしか1,500部。それでもやはり、人の人生に関わっていたかった。

 昔、教養文庫を出していた、今はもう倒産した社会思想社に、教養文庫のある数学の本が品切れになっているので、増刷の予定がないかを電話で問い合わせたとき、大学の授業のテキストで取り上げられれば数十部が動くので、そうしたら500部増刷しますと言われた。
 私も小さな出版社に関わっていたので、発行部数が少ないのは理解できる。それでも初版は3,000部を最低部数として定価を算出していたし、増刷は最低1,000部だった。だから増刷100部とか500部というのに驚いたのだ。
 と言いながら忘れていたことを思い出した。虫えい(虫瘤)に関する図鑑は税込み定価14,700円としたのだった。それで増刷はいつも500部だった。初版の売れ行きが意外に良かったので、定価の設定が高すぎたのかと反省したが、安い定価をつけていたら増刷は無理だっただろう。絶版にするところだった。