三井住友銀行、オートバイ、猫、美しい知人

 表参道の交差点の交番で三井住友銀行の場所をたずねると、信号を渡って左に真っ直ぐ150メートルほど行ったところだと教えてくれた。もう150メートルは過ぎただろうと思うのに銀行の看板が見えない。警官が他の銀行と勘違いしたのだろうかと思ったとき、遠くの別の看板の下から少しだけ覗いている白っぽい看板に濃い緑の縦の2本棒が見えた。見えたのは三井住友銀行の「行」の字の下1/3だ。それだけで全体が分かるのはなぜだろう。
 電車の窓から遠くにちらっと見える樹木が柿の木だと分かる。緑一面の畑がこんにゃく畑だと分かる。なぜだろう。
 以前オートバイが好きで「月刊ロードライダー」という雑誌を十数年購読していた。その頃は車の陰などにバイクの一部が見えただけで車種が分かってしまった。一部から全体が分かるのはなぜだろう。
 視界の端で猫を見つけたと思ったのが布きれだったりする。以前夕暮れ時、前方から近づいてくる女性が知人だと思った直後人違いに気づいた時、CGで作るSF映画のように知人の美しい顔がぐにゃりと見知らぬおばさんの顔に変わったことがあった。布きれや見知らぬおばさんから猫や美人の知人を作り上げていたようだ。
 一部分から全体を認識するということと、少ない情報から全体を構成することは同じことだろうか。