河合隼雄『対談集 あなたが子どもだったころ[完全版]』(中公文庫)を読む。河合隼雄が16人の作家などと対談し、彼らの幼少期の頃のことを話している。鶴見俊輔、谷川俊太郎、武満徹、井上ひさし、大庭みな子、筒井康隆、佐渡裕、安藤忠雄など。
元々2冊だった対談集を合わせて1冊にしている。鶴見俊輔だけ2回登場している。その鶴見との対談がとても良かった。
鶴見俊輔は母親との折り合いが悪かった。いわゆる鬼母だった。鶴見は何度も自殺を試みて、15歳のとき父親からアメリカ留学を勧められる。ほとんど英語ができない状態で留学した。英語ができないのに、アメリカの大学で教授をしていた都留重人から来年すぐ大学の試験を受けろと言われた。それで大学を受けるために勉強すると、3か月経ったある日、突如として英語がパッと全部分かった。
鶴見俊輔 パッと掴んじゃうんですよ。それからね、私は自分の子どもでも注意してみたんですよ。子どもも、初め黙っていて、こう寝ててブツブツいって練習してる期間がありますね。あの時に全構造を習得しているんです。口を動かすと、初めは一語文でしょう。で、一語文の期間が長いですからね。だから、親のほうは間違って、一語文から二語文、二語文から三語文になるように、自分で神話を組み立てているわけなんだけど、そうじゃないんですね。(中略)
一語文しゃべる前に、すでに、構造は習得されているんですね。
だから、鶴見はチョムスキーの理論を信じるという。
途中、河合隼雄が書く。
考えてみると――別に選んだわけでもないが――今まで対談させていただいた、鶴見俊輔、谷川俊太郎、武満徹という3人の男性方は、すべて日本の高等教育とは無縁の人たちなのである。日本という国が持つシステム――目に見えぬものも含めて――が、どこかで創造的な人を拒否するようにできているのかもしれない。
女優の三林京子は中学1年で大女優山田五十鈴に弟子入りした。三林は山田五十鈴のことを「偉い人は偉そうにしない」「ほんまもんの偉い人はやさしいですね」と言っている。
そういえば私も晩年の山田五十鈴に出会ったことがある。録音スタジオで、〇番スタジオはどこですかと訊かれたことがあった。小さなお婆さんだったが、それが山田五十鈴だった。チンピラ相手に丁寧な言葉で。やはりオーラがあった。