鴎座の「ダントンの死について」

 神楽坂のシアター・イワトで鴎座の「ダントンの死について」という芝居を見た。ゲオルク・ビューヒナーの台本を大幅に刈り込んで再構成しているらしい。台本・演出・美術が黒テント佐藤信だ。鴎座は佐藤信の個人劇団なのだ。
 ダントンはロベスピエールとともにフランス革命で最も過激だったジャコバン党の中心メンバー、しかし2人は革命の方針を巡って対立し、やがてダントンはロベスピエールによってギロチンにかけられる。芝居は部屋の中でカードをする4人の男女で始まる。しかし4人が直接に会話をすることはほとんどない。舞台の外からスピーカーの声が語りかける。4人のうち1人の女と1人の男が踊る。残り2人の男のうち1人がダントンを演じ、もう1人がロベスピエールを演じる。舞台中央に鉄棒を組んで作られた柱が立てられていて、その柱を回したり、登ったりすることが行動を表しているようだ。
 ダントンは終始絶望しているように見える。死を望んでいる。女はほとんど裸体で激しく踊りまくっている。女だけが他の3人の男と絡み踊りを続けている。舞台は象徴的な動作だけで展開していく。最後におもちゃのような小さなギロチンが落とされる。普通の芝居のカタルシスはない。
 ほとんど芝居が成立しないようなところで佐藤信の力業で成り立っている。それに大きく貢献しているのがダントン役の笛田宇一郎の演技だ。すばらしい役者だ。SCOTの鈴木忠志のスズキ・メソッドを体現しているらしい。してみるとスズキ・メソッドは十分有効な役者の訓練法なのか。佐藤信の力業のもう一つが終始踊っていた水無潤の採用だ。彼女はダンサーであり、AV女優、ストリップ劇場への出演とある。Tバックだけの格好で舞台中央の柱へ上り、観客に向かって足を180度開いていた。
 佐藤信は昔から革命を描いてきた。鼠小僧次郎吉シリーズや昭和3部作など傑作だった。しかしベルリンの壁が崩壊した後、テーマに悩んでいたのではなかったか。イギリスのスパイ小説の大家ジョン・ル・カレが東西冷戦が終わった後、やはりスランプに陥ったように。
 佐藤信ブレヒトの「三文オペラ」や「肝っ玉おっかあ」、そして「ヴォイツェック」「灰とダイヤモンド」「鉄コン筋クリート」「荷風のオペラ」など見て楽しめる芝居も数多く作ってきた。そして今回の舞台だ。
 カタルシスはなかったが、緊張感が持続するすぐれた舞台だった。現代音楽の演奏会にロマン派の音楽を求めて行ったら呆然とするように、万人向けの舞台ではなかったが。