エドワード・ボンド『戦争戯曲集・三部作』に圧倒される

 座・高円寺の劇場創造アカデミー4期生終了上演『戦争戯曲集・三部作』に圧倒された。作者のエドワード・ボンドはイギリスの劇作家、「三部作」と題されたとおり、第一部『赤と黒と無知」、第二部『缶詰族』、第三部『大いなる平和』からなっている。これを座・高円寺創造アカデミーで2年間学んだ研修生たちが修了公演として演じていて、それを佐藤信生田萬が演出している。佐藤は黒テントを主宰していたアングラ演劇の旗手だったし、生田も銀粉蝶とともにアングラ演劇で活躍していた。
 この三部作は通して演じると7時間に及ぶ大作で、いままで修了公演では一部と二部を上演し、翌年三部を上演するというように通しては演じてこなかった。それを今回、間に1時間半ほどの休憩を挟んで一挙に上演するというもの。こんなに長時間芝居を見続けたのは初めてだった。
 芝居の内容は非常に重たいものだ。『赤と黒と無知』では戦争のさなか、少なくなった食糧の確保のために兵士が市民の中から幼い赤ん坊を殺すことを命令される。兵士は自分の家に帰り、隣人の赤ん坊を殺そうとするが、それができなくて母親が眼を話した隙に幼い自分の妹(弟?)を絞め殺す。
 『缶詰族』は核戦争後に生き残った少数のコミューンの物語。膨大な量の缶詰だけがあり、それを原資に集団を再生しようとするが、外部から男が現れ、それに関係するのかしないのか病気が発生し、みな死んでいく。
 『大いなる平和』では、戦争後17年経った世界が描かれる。『赤と黒と無知』で赤ん坊を殺されたらしい老婆が、狂っているのかシーツを丸めたものを自分の赤ん坊だとして抱きかかえている。新しいコミューンを作った若者たちが合流しようと誘うが、それを拒んで冬の荒野に残り死んでいく。
 粗筋をごく簡単にたどれば、以上に枝葉をつけたようなものだが、芝居は粗筋なんかではなくて、そこに「生きる人間」「生」が具体的に立ち現れて見る者に迫ってくる。「戦争」の実態がまざまざと見えてくる。兵士の息子が赤ん坊を殺すために帰ってきたとき、母親はそれを激しく拒否するが、やがて自分の赤子を守るために隣人の赤ん坊を殺そうとまでする。母親のその心境の変化が、説得力をもって演じられる。
 佐藤信生田萬という前衛的な演出家の芝居だから、新劇的なリアリズムとはずいぶん違っている。舞台も20センチくらいの高さの真四角で大きな床が作られているばかりだ。そこにテーブルが置かれるくらいで、家庭になったり軍隊の駐屯地になったりコミューンになったり荒野に変わったりする。
 一部・二部と三部がそれぞれ入場料1,000円。7時間の芝居をたった2,000円で見ることができる。これは毎年行われる修了上演なのだ。研修生の演技だが2年間みっちり鍛えられた結果だから十分楽しめた。毎年楽しみな芝居なのだ。


座・高円寺
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