松浦理英子と橋本治

裏ヴァージョン (文春文庫)
 松浦理英子の新作「犬身」が出たので、古いがまだきちんと読んでなかった前作「裏ヴァージョン」(筑摩書房、最近文春文庫にもなった)を読んだ。以前きちんと読まなかったのは筑摩書房のPR誌「ちくま」に連載中に読んでいたためだ。松浦は好きな作家の一人で、「葬儀の日」「セバスチャン」「ナチュラル・ウーマン」などなかなか良かった。「葬儀の日」は青山学院在学中の作品で、文学界新人賞を受賞している。ただ彼女はレズとマゾヒズムに強くこだわりがあって、ノンケの私にはそれが痛かった。その後「親指Pの修業時代」がベストセラーになり、女流文学賞を受賞した。この親指がペニスになったという長編をどうにも評価できなかった。今度の新作「犬身」もマゾが深く絡んでくると思うので読むつもりではいるがちょっと腰が引けている。
 同じ同性愛を描いても橋本治の「桃尻娘」シリーズは傑作だった。高校生の主人公たちの会話が生き生きとしていて、まるで日本のライ麦畑だと思った。連作短篇集の最初の主人公榊原玲奈のモノローグがダントツうまい。男の作家が女子高生のなんでこんな自然な会話が書けるのだろう。
 第4編の主人公が玲奈の同級生でオカマの木川田源一君だ。3年の滝上圭介先輩に夢中なのだが先輩はノンケなので辛い恋をしている。ところが木川田君も自宅に後輩を連れ込んでしているのが父親にばれたり、金のため何度か寝たオヤジが父親の取引先の部長だったりと決してきれいな世界ではないのに、結構これが楽しく読めるのだ。
 じゃあ、それが橋本治の資質かと言えば「愛の矢車草」では一転、トラックの長距離運転手をしているごつい小母さんが主人公で、彼女はレズでそのおどろおどろした愛欲を描いている。これは2度と読みたくない。
 橋本治の高校生たちの会話が優れていると書いたが、桃尻娘の初版発行は1978年でもう30年前になる。じゃあ現在の若者はどんな口調かとブログを読めば、アーティスト集団「Chim ↑ Pom」の紅一点エリイが綴る「Chim ↑ Pom エリイのプレゼント☆」を見れば驚くばかりだ。

今日わママンと横浜で買い物したッ

ブーツとかさっそくはいてるケドあしがいたい

チョーぎゅーぎゅーのジーパン買ってマヂキツィ

コートかわいー
昨日わ夜中誰かに腕をぎゅぅッて−つかまれて怖くてーなんかチョー疲れてたカラ体が奮えてたのかも

今日花粉ぽくね?

 広告のコピーや雑誌「ぴあ」のはみだし欄に投稿するため、若い娘たちの会話を何度も書いてきたが、私にはもう現代の若者の会話は書けないと確信した。