私のところに天井桟敷の入団の手びきがある。おそらく40年ほど前、1967年から1968年頃作られたものだ。当時友人が、お前ここに入団しないかとと送ってくれたものだろう。表紙に「天井桟敷 A LABORATORY OF PLAY」とタイトルが印刷されている。表紙をめくった見開きには次のように書かれている。
入団の手びき
■怪優奇優侏儒巨人美少女等募集
天井桟敷は制作部、文芸演出部、舞台美術部、演技部員を募集しています。
〔手続き〕
1.写真と履歴書を添えて劇団宛にお申込み下さい。
2.教養、面接試験を実施した上で入団合格者を決定します。
3.合格者は入団金10000円納入と同時に団員の資格を得ます。
4.劇団員としての維持費は月額2000円です。
■新しい演劇の実験に興味ある人のために実験室スタツフも募集しています。あなたの構想をお寄せ下さい。
◆1967年度の活動◆
4月 「青森県のせむし男」旗上げ公演(草月会館ホール)
5月 「青森県のせむし男」再演、再々演(アートシアター新宿文化)
6月 「大山デブコの犯罪」(新宿末広亭)
9月 「毛皮のマリー」(アートシアター新宿文化)
10月 「毛皮のマリー」再演(アートシアター新宿文化)
11月 「花札伝綺」(草月会館ホール)
12月 年間台本集「さあさあ、お立合い」(徳間書店)出版
1月 天井桟敷展覧会(ギヤラリー新宿)
1月 「千一夜物語、新宿版」(厚生年金会館小ホール)
3月 「青ひげ」(日仏会館ホール)
「伯爵令嬢小鷹狩掬子の七つの大罪」(日仏会館ホール)
◆1968年度の活動予定◆
家出劇「書を捨てよ、町へ出よう」(後楽園ボクシング、ジム)
男装劇「星の王子さま」(アートシアター新宿文化)
電子計算機によるメロドラマ「ハート・ブレイク・ホテル」(CTG提携)
野外劇「走れ、メロス」(日比谷野外音楽堂)
重喜劇「大山デブコの復習」(新宿末広亭)
「青森県のせむし男」パリ公演(パリ、テアトル、デ、ナシオン)
「毛皮のマリー」再々演公開シンポジュウム、人間実験、アトリエ公演なども企画されています。
劇団事務所
東京都世田谷区下馬2-5-7
このほか「支持会員の手びき」が印刷されており、入会金2500円で年間6本の本公演に無料招待、隔月刊の雑誌「天井桟敷」新聞「天井桟敷」無料進呈などとある。
この時の入団金10,000円は、現在では70,000円くらいだろうか。
私は入団の申込みはしなかったが、これとは別に募集していたスナック天井桟敷のウェイターには応募しようとした。電話をすると後の寺山修司夫人、当時マネージャーだった田中未知さんが出て、勤務時間や給料を話してくれた。給料はよかったが、勤務時間が深夜の2時までだという。帰宅の足がなかったのでこれも辞退した。この後彼女はカルメン・マキが歌ってヒットした「時には母のない子のように」を作曲する。
入団金10,000円を現在の70,000円と換算した根拠は、当時喫茶店のウェイターの給料が月25日働いて30,000円だったこと。日当で1,200円だ。時給にしてたった150円! キャバレーのボーイが同じく月36,000円、立ちんぼの土方が日当2,000円だった。新宿西口小便横町の天ぷら定食が120円だったように思う。屋台の夜泣きラーメンが100円だった。