柴田南雄生誕100年記念演奏会を聴く

 サントリーホール柴田南雄生誕100年・没後20年記念演奏会があった(11月7日)。「山田和樹が次世代につなぐ〜ゆく河の流れは絶えずして〜」と題されたもの。どうせ現代音楽だから前売り券など買わなくても当日券がたくさん余っているだろうと開演1時間前にチケット売り場へ行った。当日券売り場は閉まっていて、価格表に当日券売り切れとあった。なんということだ! 
 いつもプラス思考の私はこの期に及んでもどうしたら入場できるかと考えていた。すると横に立っていた男性が当日券を探しているのですかと話しかけてきた。ええ、と答えると、このチケットを買いませんか、S席の2階の正面です、定価で譲りますと言う。
 チケットを見ると本物に間違いないようだった。S席は7,000円、B席の5,000円かC席の4,000円を予定していたので予算オーバーだった。1秒ほど考えてもらうことにした。しかし、現代音楽で完売だなんて聞いたことがない!
 指揮:山田和樹、日本フィルハーモニー交響楽団、東京混声合唱団、武蔵野音楽大学合唱団、尺八:関一郎。曲は「ディアフォニア」、「追分節考」、「ゆく河の流れは絶えずして」の3曲。
 この「追分節考」が絶品だった。指揮者が舞台でうちわを台に立てる。うちわには「い」とか「う」とかの文字=記号が書かれている。追分節には地域によるいくつものバリエーションがあり、記号はそれらのどれを歌うかを指示するものという。合唱団は何組にも分かれ、観客の出入りする入り口から客席に現われる。通路を歩き回りながら歌っている。追分節がもともと歩きながら歌うものだとからという。観客の周囲で合唱が響き渡る。尺八を吹く人がやはり客席を歩き回り舞台に昇ったあと楽屋に消えていった。胸が高鳴り涙が溢れそうなほど感動した。
 1973年以来もう3,000回も演奏されているという。人気があるのがよく分かった。満員の観衆の拍手がいつまでも鳴りやまなかった。
 3曲目はオーケストラと合唱の曲で「ゆく河の流れは絶えずして」、ここでも合唱団が客席の間を歩き回り、『徒然草』の1節を歌っている。これら客席の間を歩き回り演奏する形式をシアター・ピースというようだ。柴田南雄のシアター・ピースにはいつも圧倒される。
 初めて柴田のシアター・ピースを聴いたのは「萬歳流し」だった。もう20年以上前になる。FM放送で流していたそれの終りの10分ほどを偶然聴いたのだった。当時LPレコードを探したがすでに廃盤になっていた。NHKのクラシック番組でリクエストで曲を流している大友直人が司会をしている番組に生まれて初めてリクエスト葉書を送り採用された。墨田区の曽根原さんのリクエストで「萬歳流し」を送りますと放送されたときはちょっと恥ずかしかった。その時「萬歳流し」を初めて聴いた。素晴らしかった。

 その後東京文化会館やどこかで柴田のシアター・ピースを何度か聴いている。やがてCDでも発売されすぐに買った。『柴田南雄:合唱のためのシアター・ピース』には、「追分節考」「北越戯譜」「萬歳流し」「念佛踊」が入っている。しかし「追分節考」の感動は実演には遠く及ばない。「萬歳流し」はけっこう楽しめるが。
 また「追分節考」が演奏されれば何回でも聴きに行くだろう。現代音楽でこんなに感動するのは久しぶりだった。


柴田南雄/合唱のためのシアター・ピース [SHM-CD増補解説版]

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