宮沢章夫が紹介する海外旅行のためのちょっとしたコツ。
私には、「旅の師匠」がいる。
かつてあるテレビ局に勤めていたF氏がそうだ。F氏に誘われて、外国に旅行した経験は、単に「旅行する」というのとはまたべつの、「旅の修行」というものだとつくづく思ったからだ。
たとえば、「トイレットペーパーは芯を抜いてバッグの底にでも入れておきなさい」と教えられ、その通りにしたら、ほんとうに便利だったし、「暗証番号をノートにメモしておくと鞄ごと盗まれたら使われます。数字をひらがなでメモしなさい。外国人にはわかりませんから」と、これには唸った。
ほかにも、日本の雑誌についている読者用はがきに自分の顔写真を貼り、瓶の栓でスタンプらしきものを押して学生証だと言い張る方法とか、飛行機のチケットを洗濯機で洗い、ちょっとだけ加工する方法など、犯罪すれすれのものまであった。(朝日新聞、1995年6月6日夕刊)