石田徹也という画家のこと、アジアの絵画バブル

石田徹也遺作集



 石田徹也という若い画家が話題になっている。
 不思議な絵を描いていたが、一昨年2005年に31歳で亡くなった。亡くなって1周年に生前関わりのあった銀座の3つの画廊が協力して回顧展を開いた。ガーディアン・ガーデンとギャラリー・イセヨシ、それにギャラリーQだ。その回顧展がNHK教育テレビ「新・日曜美術館」で取り上げられ、急に話題の人になった。
 石田徹也は1973年静岡県焼津市に生まれた。武蔵野美術大学に入学し、在学中22歳のときガーディアン・ガーデンが主催する「ひとつぼ展」に応募し、イラスト部門でグランプリを受賞した。それを見たとき、なんという独特な発想をするのか! と驚いた。ついでガーディアン・ガーデンで個展が開かれ、日本にもやっと欧米の真似でない独自のシュールレアリスムの画家が現れたと喜んだ。彼以前には全く見たことのない絵だった。
 25歳のときキリンコンテンポラリーアワード奨励賞受賞。その後ギャラリーQで個展、ギャラリー・イセヨシでも個展が開かれた。2001年のVOCA展では奨励賞を受賞した。若い内から評価が高かった。ところが今になってみれば、それでも美術愛好家にすら知られることが少なかったようだ。NHKの番組を見て初めて知ったという美術関係者が何人もいた。
 3つの画廊が回顧展を開いたとき求龍堂から「石田徹也遺作画集」が発行された。出版社に電話して発売日を確認し、発売当日池袋のジュンク堂本店のホームページを見た。ここは本店の在庫数を表示している。日本で一番大きく品揃えの多いこの書店で石田徹也の画集の在庫はたった1冊だった。こんなに在庫が少ないというのは、出版社が売れないと踏んだのだ。しかしNHKで取り上げたとたんブームとなり瞬く間に増刷を重ねた。
 最近香港のクリスティーズのオークションに石田徹也の作品が出品され、1,200万円で落札された。日本のシンワアートオークションでも10号が400万円で落札されたという。


 先日東京の京橋会館で東京現代美術画廊会議主催の「金と芸術」というシンポジウムが行われた。パネラーが、栃木県立美術館学芸員山本和弘、ニッセイ基礎研究所の吉本光宏、慶應義塾大学の岩淵潤子、司会がギャラリーQの上田雄三の各氏。
 ここで現在日本の現代美術家奈良美智村上隆、写真家の杉本博司は海外で1億円で取引されているという話があった。現代中国の画家たちもやはり1億円する若手画家たちが現れてきた。10年前に風呂もついてないアパートに住んでいた中国人画家が、最近会ったとき3,000坪のアトリエに、レストランも4軒持っていて、「社長」になっていたという。
 中国は絵画バブルになっていて、石田徹也もその影響で高値落札されたのだ。グローバル化で欧米のだぶついている金がアジアに流れ込んでいるのだと説明してくれた。
 岩淵はこれは1990年代のロシア美術の状況に似ているという。当時ロシアにも欧米の金が流れ込みバブルになったが、数年でそれがはじけた。それは資本主義に慣れていないロシアの画家たちが、売れるからと粗製濫造したせいだ。
 日本を除いて中国、インド、韓国など、アジアでは絵画バブルになっているようだ。これが日本にどのように影響してくるのだろう。