ヤン・ヨンヒ『朝鮮大学校物語』を読む

 ヤン・ヨンヒ朝鮮大学校物語』(角川書店)を読む。ヤンは在日2世。映画『かぞくのくに』を監督してベルリン国際映画祭国際アートシアター連盟賞ほかを受賞した。またノンフィクションの『兄 かぞくのくに』(小学館文庫)も書いている。どちらもこのブログに紹介した。
 本書は小説で、1983年に朝鮮大学校に進学した在日2世の女性パク・ミヨンを主人公にしている。現在ミヨンが舞台の脚本家になっていて、彼女の書いた芝居の稽古が始まるときに、30年前を振り返って朝鮮大学校の4年間を綴るという構成になっている。
 ミヨンが大阪の朝鮮高校から東京の朝鮮大学校に入学してくる。この学校は武蔵野美術大学の隣にあり、全寮制となっている。門限も6時と早く日常生活の規制も厳しい。校内では原則朝鮮語のみで日本語は禁止。入学して1週間目に外出許可をもらって芝居を見に行ったミヨンは、出演者と話し込んで制限時間に遅れ、翌日総括されることになる。
 ミヨンの本棚に朝鮮文学の本が少なすぎ、外国文学や趣味の演劇に関する本や雑誌ばかりなのが非難される。そして、「ここは日本ではありません。朝鮮大学校で生活いている貴女は、共和国で、すなわち朝鮮民主主義人民共和国で生きているのだと自覚しなさい!」と責められる。
 ミヨンは隣の武蔵野美術大学の学生と知り合う。彼と連絡を取るには手紙か、公衆電話を使ってミヨンから彼のアパートに電話するしかない。彼から直接ミヨンへ電話することはできないし、そもそも日本人と付き合うのも批判されてしまう。
 右翼が学校の近くに来てヘイトスピーチをする。そんな人種差別の体験も語られる。3年生のときに北朝鮮に「帰国」している姉夫婦を訪ねる。姉夫婦はピョンヤンから地方へ追いやられていた。案内の人に大金を渡して地方へ旅行し姉夫婦を訪ねることができた。義兄はクラシック音楽演奏家だが、それが非難されて自己批判を繰り返させられて精神を病んでいた。
 そのようなエピソードが具体的に描かれ、リアリティを持って迫ってくる。ここまで書いてしまって、ヤン・ヨンヒ北朝鮮に拉致される心配はないのかと危惧してしまう。
 ミヨンは朝鮮大学校を卒業するとき、卒業後の配置任命式での任命を拒否する。作者のヤン・ヨンヒの履歴を見ると、1964年、大阪生まれ、朝鮮大学校卒業後、大阪朝鮮高級学校の国語教師を経て、劇団員……として活躍とある。すると少なからず創作しているらしい。
 それにしても在日を生きる、とくに総連系の在日を生きることがどんなに辛いことか、その一端を初めて知った。重たい内容の読書だった。



ヤン・ヨンヒ『兄 かぞくのくに』を読む(2013年7月10日)

『かぞくのくに』を見る(2013年6月16日)



朝鮮大学校物語

朝鮮大学校物語