薔薇絵、彼女はユニークなダンサーだ

 何年前になるのだろう、薔薇絵さんというダンサーのダンスというか舞踏を何度か見た。あれはまだ日暮里にあったdie pratzeという劇場だった。薔薇絵はほとんど裸でほとんど照明を落とした舞台で踊っていた。劇場とか舞台とか書いたが、スタジオみたいな空間で、観客はスタジオの一部に座り込んで同一平面で彼女、薔薇絵が踊るのだった。観客は30人前後ではなかったか。外人も目立ったし女性も少なからずいた。
 音楽はあちこちの音源から彼女自身がコラージュしたと言っていた。裸とは言ってもほとんど暗闇に近く、目が慣れても細部は見えなかった。でも男は馬鹿だから、彼女は裸なんだと思って小1時間集中して見入っていた。股のところにピンポン球より小さな銀の玉を付けていた。何をどうやって付けているのかとの私の質問に、クリスマスツリーなどに使うのをイヤリングの金具で付けていると教えてくれた。
 私がいろいろ詳しいのは、いっとき彼女の公演のチラシを作るのを手伝ったからだ。写真はアラーキーが彼女を撮影したのを使った。
 雑誌などで何度か取り上げられて、それで興味を持って見に行った。初めは裸を見られると思ったのだ。裸はほとんど見られないがダンスは面白かった。結構はまった。舞台はいつの間にか始まる。下手から黒い人影が本当にゆっくり現れる。3メートルくらいの距離を15分くらいかけて進む。日常で決して見ることのない緩慢な時間。これだけゆっくりだと動いているのかそうではないのか疑問に思うくらいだ。初めから終わりまでゆっくりした動きが続く。
 かと思うと舞台にビール瓶があり、それを断ち割る。ガラスの破片の上に倒れ込む。血は出ない。映画の撮影用に使われるガラスに似た安全な瓶らしい。そのような被虐的な所作も多い。
 ある公演ではカナリヤを2羽手に紐で結んで登場し、ダンスが半ばまで来たとき叩きつけて殺した。外人らしい観客から残酷なことはよせと声が飛んだが、私はこれに命をかけているのよ、嫌だったら出て行ってと返した。数人が退出した。
 腕を上げて本当にゆっくりと動かすその所作は人の動作とは思えないくらい美しかった。ただ腕を動かしているだけなのに。ただ腕を動かしているのではない。ダンス=舞踏=所作がそれを越えた別の何かに昇華していた。その動きを私は忘れない。
 アルバイトでアラーキーの撮る雑誌のヌードモデルをした。雑誌に掲載されたその写真も見た。私はアーチストだから彼(アラーキー)の要求する変なポーズは拒否したと言った。ダンサーの高いプライドが小気味良かった。
 数年前出産したと聞いた。また彼女のダンスを見てみたい。