荒木経惟『天才と死』(イースト新書)を読む。タイトルからは分からないが、これはアラーキーの対談集だった。北野武、赤塚不二夫、綾小路きみまろ、森山大道、末井昭ら5人と対談している。
しかしアラーキーは誰ともまともな会話をしないように見える。真剣に対話をするという習慣がないかのようだ。ほとんどおふざけの連続で、まるでテレビのバラエティ番組の雑談を活字化したような印象だ。森山大道が思わず「ひと言言わんと気が済まないんだな、アナタは(笑)」とか、「アナタはほんっとに、まあウソっぽくていいね。オレが会った中で一番ウソっぽい人」なんて言っている。
例外的にちゃんとした対談になっているのは末井昭と2000年に行ったもの。末井は1981年にアラーキーを使って『写真時代』という雑誌を創刊し、エロ雑誌を堂々と一般書店に並べてブームを作った白夜書房の編集者。アラーキーはこの雑誌でメジャーデビューしている。二人で当時を振り返って対談しているので、不必要なおふざけもなく、ちゃんとした会話になっている。末井はある種の名物編集者だが、自伝によると子供の頃母親がダイナマイト自殺したとか半端ではない半生をおくってきた。『写真時代』の過激な写真で何度も何度も警視庁に呼ばれているという。たった一度の摘発で深く反省してしまった写真家加納典明とはえらく違う。
『写真時代』の創刊号の表紙は田宮史郎の撮った三原順子だったという。
末井 厳密に言うと、本当はこの三原順子もダメなんですよ。
荒木 暗いな(笑)。
末井 雑誌の表紙ってのは、影が出ないのがイイんですよ。
「雑誌の表紙は、影が出ないのがイイ」なんて知らなかった。
でもやっぱりアラーキーは小悪人だと思う。何度か聞いた講演会の印象でもそうだったし、彼のモデルになった女性の話を聞いたときもそう思った。
キムチン(司会) 以前にお会いしましたよ、14歳の頃にモデルやってて、荒木さんと末井さんに騙されて撮られたっていう婦女子を。しっかりトラウマになってました。
末井 そういう緊迫感もあるわけよ(笑)。撮りながら裸にしていこうっていう。とりあえず口から出任せで、1、2万(円)で連れてくるわけだから。
荒木 アングラ劇団なんか行ってさ、「芸術だから1万円」なんつって口説くわけですよ。
と、全然反省がない。トラウマになっている女性がいるのに。
さて、本書の対談の年代は1997年から2012年に及んでいる。長い間どこの出版社も単行本化を企画しなかったものばかりのように思われる。それをイースト・プレスが落穂拾いして新書に仕立て上げたのだった。2013年初版発行。

- 作者: 荒木経惟
- 出版社/メーカー: イースト・プレス
- 発売日: 2013/06/03
- メディア: 新書
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