谷川晃一『毒曜日のギャラリー』を読む

 谷川晃一『毒曜日のギャラリー』(リブロポート)を読む。谷川が25人のアーティストたちを紹介している。主な人物を拾っても、池田龍雄中西夏之、菊畑茂久馬、赤瀬川原平中村宏、篠原有司男、横尾忠則秋山祐徳太子、吉野辰海など錚々たるメンバーだ。しかもほぼ40年前の雑誌連載だから、大御所たちがまだ若く現役バリバリの頃のエピソードを綴っている。芸術家たちは皆変な連中ばかりだという印象を持った。

 特に篠原有司男は作品も評価できないし、人間性も問題があるのではないだろうか。

 暗黒舞踏のダンサーの一人、石井満隆について、そのパフォーマンスを紹介している。

 

 劇場の中に入った客は、客席の中央に置かれた枯れ草の山を囲んで座る。このトラック1台分ほどの枯れ草の「草いきれ」で劇場空間は農家の納屋のような雰囲気になっていた。やがてこの枯れ草の山を押し上げるように下から一人の裸の男が現われる。枯れ草の山は一転して裸の男の巨大なヘアーに変転する。そこに西洋の死神が持っているような大きな鎌をかついだ石井満隆が現われ、この枯れ草ヘアーに鎌をつきたて、ヘアーを床にひきずり下ろすところからこの舞台ははじまった。舞踏家は大鎌を一閃させると舞台にかけ上り、鎌をふりまわして激しく舞う。とき折り、舞台の奥に取り付けてある電動グラインダーに鎌が触れると大量の火花が、あたり一面に飛び散るのだった。次に大鎌を捨て、電動グラインダーを握りしめたこの舞踏家は、中華鍋を鉄カブトのように頭に乗せている青年に突進し、その青年の頭にグラインダーを押しつけると、青年の頭部の鉄カブトから舞台一面に火花が美しく散乱した。その火花の中を古新聞で覆面した双頭人、空手を使う人間スクリーン、定規としての犬、天井から降りそそぐダルマの雨、空気中で自然発火する黄燐による鬼火、鯛めしべんとうのスライド、ちゃぶだいの輿など人間とオブジェのパレードが進行し、そのパレードをぬって石井満隆は踊り狂っていたのである。

 

 私も若いころ数々のアングラ演劇を見てきたが、これほどの過激なパフォーマンスは少なかった。中華鍋を被る役の青年は怯えて路地の奥で泣いていた。翌日から行方不明になり、故郷に帰ってノイローゼになって精神病院へ入ったという。

 面白いエピソード満載で、絶版になっているのが惜しい本だ。