先日東京四谷三丁目の画廊TS4312を訪うと、画廊主が映画『スティルライフオブメモリーズ』のちらしを渡してくれた。なんで? そのちらしから、
フランスの画家、アンリ・マッケローニの写真集より、一つとして同じものがない女性の肉体の豊かな表情と神々しさ、そしてマッケローニと、自らを撮らせた彼の愛人が過ごした2年間に触発され、企画されたのが矢崎仁司監督最新作『Still Life of Memories(スティルライフオブメモリーズ)』。東京のフォトギャラリーで、新進気鋭の若手写真家、春馬の写真展が開かれている。山梨県立写真美術館のキュレーター、怜は、たまたま入ったギャラリーで春馬の写真に心奪われる。翌日、怜は春馬に連絡をとり、撮影を依頼する。怜が撮ってほしいと切り出したのは…。突然の依頼に戸惑う春馬だったが、アトリエが夕陽に包まれたとき、怜に向けてシャッターを切る。(……)
文中「一つとして同じものがない女性の肉体」と書かれているのは、女性器のことなのだ。そんなことを知っているのはマッケローニの写真展を覚えているからだ。いや、私は見逃してしまったのだけれど。1993年頃東京渋谷の美蕾樹というギャラリーでマッケローニ写真展があった。それが映画のチラシで触れられている女性器の写真展だった。同じ時期に渋谷区立公民館みたいなところで二ホンカワウソ友の会が主催する二ホンカワウソのパネル展示会があった。当時その会の会員だった娘に付き添って渋谷の展示会に行った。美蕾樹はそこから徒歩3分もかからない近くにあった。マッケローニ写真展が見たい、しかし娘は小学生だった。必要以上に理性と常識と良識にあふれる私は写真展に寄り道することなくまっすぐ帰宅したのだった。その時の心残りはいまだにわずかながらくすぶっているのかもしれない。映画のチラシを見てすぐそのことを思い出したのだから。
美蕾樹は特異なギャラリーで、生越さんという女性がオーナーだった。主にSM、ホモ、レズ、エロ関係の作品を展示していた。アラーキーがヤバイ写真を展示したとき、刑事が来て展示をやめさせた。生越さんは壁からアラーキーの写真を下ろし、床に後ろ向きに置いて壁に立てかけた。そして来た客に自分でひっくり返させてヤバイ写真を見せたのだという。私はこの時も見てないが、別の機会に美蕾樹のアラーキーのヤバイ写真展を見ている。カタツムリを使ったもので、勃起したペニスにカタツムリを這わせたり、女性器の中にカタツムリを入れ、そこからカタツムリがヌルヌルした体と触角を出しているというエロティックでグロテスクなものだった。アラーキーには荒木番の刑事がついていたが、ベネチア・ビエンナーレに出品したことで刑事が外れたのだと生越さんは言っていた。
セクシーロボットを描いているイラストレーターの空山基も担当刑事がついていたが、空山がソニーのアイボをデザインしたことによって刑事が外れたのだとも。
美蕾樹は閉廊して今はないが、生越さんは不忍画廊で働いていたこともあった。当時のエピソードは今回は省略する。美蕾樹には30年くらい顔を出していたが、生越さんの年齢がずっと分からなかった。閉廊したころ初めて彼女の年齢を知ったが、30年間ほとんど齢を取らなかった。半端ない根性の女性ギャラリストだった。