社会

斎藤幸平『人新生の「資本論」』を読む

斎藤幸平『人新生の「資本論」』(集英社新書)を読む。私が3月に購入した本は20万部突破と帯にうたっていたけれど、最近書店で見たものには39万部となっていた。こんな難しい本がベストセラーじゃん! 「人新生」とは、人類が地球を破壊しつくす時代と、こ…

吉行淳之介『やわらかい話』を読む

吉行淳之介『やわらかい話』(講談社文芸文庫)を読む。副題が「丸谷才一 編、吉行淳之介対談集」。前回読んだ『やわらかい話2』の前編。タイトルどおり艶な対談を集めている。 最初の対談相手金子光晴は詩人、対談時79歳。 吉行 (……)ところで、金子さん…

岡田暁生『音楽の危機』を読む

岡田暁生『音楽の危機』(中公新書)を読む。去年発売された時、コロナ禍で生演奏が聴けなくなったことを嘆いている時事的な本かと手に取らないでいたら、今年小林秀雄賞を受賞したのであわてて購入した。その授賞理由が、 「音楽」というものの生々しさと理…

成り上がり者の好きな前衛芸術

昨日紹介した「商品」を作り続ける作家たちに関連して、10年ほど前に紹介した辻井喬・上野千鶴子「ポスト消費社会のゆくえ」(文春新書)の一部を再録する。辻井喬は西部デパート・セゾングループの創立者堤清二の文学作品を発表するときのペンネーム。 辻井…

小島庸平『サラ金の歴史』を読む

小島庸平『サラ金の歴史』(中公新書)を読む。新聞の新刊広告を見ても興味が湧かなかったのに、中央公論社販売部のTwitterにPOPが載っていて俄然読む気になった。 これは新書史に名を残す傑作だ! 読んで後悔はさせません。 僕はサラ金を責められない 本書…

洋式トイレの蓋

読売新聞の書評で飯間浩明が本田弘之・岩田一成・倉林秀男『街の公共サインを点検する』(大修館書店)を紹介している(6月6日付)。飯間は国語辞典編纂者で、新しい言葉を、新聞や雑誌、本、テレビ、SNSなどから集め、街の看板やポスター、貼紙、のぼり、…

山内薫『本と人をつなぐ図書館員』を読む

山内薫『本と人をつなぐ図書館員』(読書工房)を読む。山内は東京都墨田区立図書館に40年以上勤務し、一貫して障害者サービス、子どもへのサービスを担当してきた。本書出版の頃は、高齢者や知的障害者へのサービスを積極的に行っている、と略歴にある。 肢…

「この土地は売り物ではありません」

東京渋谷区松濤に「この土地は売り物ではありません」と看板がでている割合広い駐車場(間口12m、奥行25m)がある。こんな高級市街地なのにもう何年も駐車場のままだ。なぜだろう。「本駐車場の所有者は、本駐車場を売却処分する意思はありません」と続けてい…

カロリーナ・コルホネン『フィンランドの不思議なことわざ』を読む

カロリーナ・コルホネン『フィンランドの不思議なことわざ』(草思社)を読む。文字通りフィンランドの諺を紹介している。なるほど、国が違えば諺も変わる。【 】内はことわざの意味。 「頭を第三の足にして走る」 → 【猛ダッシュする】 「レンズにやすりを…

樹村みのり『冬の蕾』を読む

樹村みのり『冬の蕾』(岩波現代文庫)を読む。副題が「ベアテ・シロタと女性の権利」。岩波現代文庫ながらマンガだ。 ベアテ・シロタは22歳で戦後、アメリカ民政局の日本国憲法草案作成に加わった。ベアテの父はユダヤ系ドイツ人だったが、ピアニストで戦前…

小川さやか『チョンキンマンションのボスは知っている』を読む

小川さやか『チョンキンマンションのボスは知っている』(春秋社)を読む。面白い読書だった。チョンキンマンションのボスことカラマは香港在住のタンザニア人。安ホテルチョンキンマンションの住人で、中古自動車のブローカーなどをしている。香港のタンザ…

高橋源一郎『誰にも相談できません』を読む

高橋源一郎『誰にも相談できません』(毎日新聞出版)を読む。毎日新聞におよそ5年間にわたって掲載された「人生相談」から100本を選んだもの。主に家庭内の悩み、夫婦や親子、嫁姑、恋人、友人、悩みは様々だ。『アンナ・カレーニナ』の有名な言葉「幸福な…

どどめ色という不思議な色

朝日新聞の校閲センターの佐藤司が「ことばサプリ」というコラムに「どどめ色」を取り上げていた(6月20日、朝日新聞)。校閲センターといえば言葉の専門家、半端な部署ではない。ただ、このことについては書きづらく2か月近く取り上げるのを躊躇してきた。 …

佐藤優の書評、冨山和彦著『コロナショック・サバイバル』が興味深い!

佐藤優が冨山和彦著『コロナショック・サバイバル』(文藝春秋)を毎日新聞に紹介している(6月6日)。それがとても興味深い。 冨山氏は、新型コロナウイルスがもたらす経済危機は3段階で到来すると予測する。第1波がローカルクライシスだ。〈出入国制限はも…

司馬遼太郎『この国のかたち 二』を読む

司馬遼太郎『この国のかたち 二』(文春文庫)を読む。『文藝春秋』の巻頭言として連載したものを24回分まとめている。単行本は30年前に出たものだが内容は古びていない。 この巻頭言は時事的なものではなく、日本の歴史、文化を毎回原稿用紙10枚ほどにまと…

浅田次郎のお母さんのエピソード

朝日新聞に連載コラム「かあさんのせなか」があって、今日は浅田次郎だった。「タフで恋多き永遠の神秘」となっている。記者の聞き書きのようだ。 浅田次郎のお母さんは美しい人だったという。浅田の小説が映画化されて女優さんと会う機会があったが、おふく…

仕事の極意

私の考える仕事の極意を紹介したい。これは以前も書いたことだが再録する。 まず重要なモットーを紹介する。 ・仕事に関しては「面倒」と言わない。 仕事というものは総て面倒なものなのだ。あえて面倒なことをして対価を得ている。仕事に対して面倒だと言っ…

シジフォスの辛さ

NKHの番組「やわらかアタマが世界を救うスペシャル!」を見ていたら、受験生に勉強の意欲をかきたてるためのボールペンが紹介されていた。インクが入っている芯にインクの残量が分かる目盛りを入れている。毎日その目盛りを見れば、自分がどんなに勉強したか…

マスクで覆った顔は・・・

コロナ禍のためマスクの着用が推奨されている。ほとんどの人がマスクを付けていて、さすがに知人では誰か分からないと言うことはない。しかし、あまり知らない人やテレビでたまに見る人も誰か分からないことが多い。 面白かったのは、美人の知人がマスクをし…

AI関連の話題

土曜日の朝日新聞書評にAI関連の書籍の紹介が上下に並んで掲載されていた。瀬名秀明『ポロック生命体』(新潮社)と、谷口将紀・宍戸常寿『デジタル・デモクラシーがやってくる!』(中央公論新社)だ。後者の副題が「AIが私たちの社会を変えるんだったら、…

絲山秋子『御社のチャラ男』の書評

絲山秋子『御社のチャラ男』(講談社)の書評が朝日新聞に載っていた(3月28日)。書評子は辛口斎藤美奈子、チャラ男について簡単にまとめているが、私の理解しているチャラ男とあまりにもピッタリ合っていて驚いた。 チャラ男の定義は一言ではいえないが、…

司馬遼太郎『この国のかたち一』を読む

久しぶり、20数年ぶりに司馬遼太郎『この国のかたち一』(文春文庫)を読む。1986年から1987年の2年間『文藝春秋』に連載した巻頭言をまとめたもの。結局この連載は10年以上続いたので評判が良かったのだろう。今回読み直してみて改めて司馬の魅力に取りつか…

新型コロナウイルスで入院中の渡辺一誠さんの手記

新型コロナウイルス感染で入院中の渡辺一誠さんの手記がすごい。 https://forbesjapan.com/articles/detail/33415 これを読んで本当に外出は控えようという気持ちになった。 入院したら2週間はかかるらしいから。

内田樹『街場の天皇論』を読む

内田樹『街場の天皇論』(東洋経済新報社)を読む。副題が「ぼくはいかにして天皇主義者になったのか」、内田の天皇論である。雑誌編集者から「天皇と近代は両立するのか」と問われて、 現に両立しているじゃないですか。むしろ非常によく機能していると言っ…

天使のトランペットが咲いている

東京日本橋小伝馬町に天使のトランペットと呼ばれるキダチチョウセンアサガオが咲いていた。これが恐ろしい幻覚作用を持っていることを2年前の植松黎の「世界の毒草」で知った。それを紹介した私のブログを再掲する。 ……キダチチョウセンアサガオの原産地の…

阿佐ヶ谷のけやき屋敷再開発

東京の杉並区の中央線阿佐ヶ谷駅から100メートルほどの至近距離にけやき屋敷と呼ばれている大きな屋敷がある。敷地面積10,000平方メートル、約3,000坪、1辺100メートルの正方形に近い。ここが再開発で河北病院になるという。 左隣に杉並第一小学校があるが、…

湊千尋『インフラグラム』を読む

湊千尋『インフラグラム』(講談社選書メチエ)を読む。インフラグラムという言葉は湊の造語で、「情報化社会のインフラとなった写真や映像」のことだという。デジタル化されて写真や映像は世界を席巻している。世界に溢れている。 港はデュシャンを参照した…

糞土師のこと

家で使っていたウォシュレットの調子が悪くなってきた。無理もない、もう20年ほど使っているのだ。業者に頼んで買い替えようとしたら、娘が私がやるという。ヨドバシからパナソニックの温水便座を取りよせて、娘が一人で工事をしてくれた。さすがに新しいの…

令和に寄せて(2)

朝日新聞の「令和に寄せて」に金井美恵子が寄稿している。金井のことだから令和祭りに参加するはずはないが、さすがにいつもの辛辣さは幾分ソフトになっている(5月2日)。 天皇の生前退位と即位による「慶祝」ムードは、10連休を政府が作ったせいで、あらゆ…

令和に寄せて

朝日新聞の連載「オトナになった女子たちへ」で伊藤理佐が書いている(4月26日朝刊)。 ……ふだん、ラジオ生活の今年50歳は、4月1日、「テレビの前」に座っていた。春休みのムスメ(9)も誘って。だって、ムスメは将来、 「えー、〇〇君、令和生まれ? わか…