社会

伊東光晴の橋本健二著『アンダークラス』(ちくま新書)の書評から

毎日新聞の書評欄に伊東光晴が橋本健二著『アンダークラス』(ちくま新書)について紹介している。本書の副題は「新たな下層階級の出現」。伊東によると、橋本は日本の階級構造を、資本家階級、労働者階級、農民や商店主のような旧中間階級、技術者、教員、…

佐野眞一『唐牛伝』を読む

佐野眞一『唐牛伝』(小学館文庫)を読む。副題が「敗者の戦後漂流」となっている。本書は唐牛(かろうじ)健太郎の伝記、唐牛は60年安保当時の全学連委員長だった。全学連は安保改定に激しく反対して連日国会へデモをしかけ、唐牛は警察の装甲車に飛乗りア…

池澤夏樹の提言

朝日新聞に池澤夏樹が連載している「終わりと始まり」というコラムがある。1月9日は「三つの統計から見える日本」と題されていた。「日本が少しずつ衰退してゆくという印象はどこから来るのか」という一節で始まっている。 平成が終わると聞いて振り返れば、…

アラン・ワイズマン『人類が消えた世界』を読む

アラン・ワイズマン『人類が消えた世界』(ハヤカワ文庫)を読む。SFのようなタイトルだが、ノンフィクションだ。増え続けた人類のために、また増大するプラスチックや化学物質などのために、地球は莫大な負荷を受けている。動植物が絶滅の危機にあり、すで…

「非々」という珍しい名字

朝日新聞の朝日歌壇に珍しい名字の女性の短歌が紹介された(10月28日)。 秋海棠と秋明菊が好きだった父は画帖にあまた残せり (島根県 非々玲子) この「非々」という名字は初めて知った。それで「名字由来net」というサイトで調べてみた。非々は愛知県に約…

香原志勢『動作』を読む

香原志勢『動作』(講談社現代新書)を読む。副題が「都市空間の行動学」で、著者の専攻は人類行動学。内容を目次から見ると、 「車内にて――閉鎖移動空間の過ごし方」 「盛り場にて――分身・変身を求めて」 「会議室にて――無為のしぐさを読む能力」 「歌舞伎…

河合隼雄『河合隼雄語録』を読む

河合隼雄『河合隼雄語録』(岩波現代文庫)を読む。息子の河合俊雄編集。本書は1974年から1976年にかけての京都大学臨床心理学教室での心理療法の事例検討会における河合隼雄のコメントをまとめたもの。当時大学院生であった藤縄真理子がそれを録音していて…

佐藤康宏「三つの絞首刑」

東京大学出版会のPR誌『UP』に佐藤康宏が「日本美術史不案内」という連載を書いている。9月号は「三つの絞首刑」と題してオウム真理教の教祖と幹部13名が死刑執行されたことを取り上げている。 2018年7月6日、オウム真理教の教祖と幹部の計7名が絞首刑に処せ…

山田昌弘『悩める日本人』を読む

山田昌弘『悩める日本人』(ディスカヴァー携書)を読む。副題が「“人生案内”に見る現代社会の姿」というもので、読売新聞に大正3年から続いている「人生案内」という人生相談を回答者の一人である山田が分析している。山田は家族社会学が専門の社会学者で、…

南千住のホテル街

連休のはじめに毎年恒例の「こんこん靴市」が南千住の浅草玉姫稲荷神社で開かれている(4月28日・29日)。神社の境内で浅草にある36の靴生産業者が中心となって催すもので、約10万足の靴が並び、市価の6〜9割引きで購入できるというもの。 南千住駅から浅草…

ウンベルト・エーコ『永遠のファシズム』を読む

ウンベルト・エーコ『永遠のファシズム』(岩波書店)を読む。著者は『薔薇の名前』で有名なイタリアの作家。本書は講演や雑誌などに掲載された時事評論的な論文5編を収めたもの。翻訳は1998年に出版されたが、現在品切れとなってamazonで古本に高値がついて…

高田里惠子『グロテスクな教養』を読む

高田里惠子『グロテスクな教養』(ちくま新書)を読む。「教養」はふつうプラスの価値観をまとっているが、ときにマイナスの価値観を込めて語られることもある。表紙裏の惹句から、 「教養とは何か」「教養にはどんな効用があるのか」――。大正教養主義から、…

高田里惠子『文学部をめぐる病い』を読む

高田里惠子『文学部をめぐる病い』(ちくま文庫)を読む。副題が「教養主義・ナチス・旧制高校」となっている。主として戦前・戦後の旧制高校―東京帝国大学出身のドイツ文学者が対象になっている。東京帝国大学で法学部でなく文学部を選んだことで、すでに立…

DIC川村記念美術館、日本画の名品売却

朝日新聞が、佐倉市のDIC川村記念美術館が所蔵する日本画の名品を売却することを決めたと報じている。 長谷川等伯や横山大観の傑作、全て売却へ DIC美術館 印象派や現代アートなど約1千点の幅広いコレクションで知られるDIC川村記念美術館(千葉県佐…

橋爪大三郎『性愛論』を読んで

橋爪大三郎『性愛論』(河出文庫)を読む。これが大変難しくて、読み終わるのに普通の倍の時間がかかってしまった。でもおもしろかった。本書は1980年前後に書かれた論文をもとにしている。橋爪30代前半ころの仕事だ。その頃橋爪はこれらの論文をトレーシン…

マナーとは何か――村上リコ『図説 英国社交界ガイド』を読む(再録)

以前マナーについて書いた(4月30日)。それに付け加えることがあったので、ここに再録して、養老孟司のマナーに関する意見を追加する。 村上リコ『図説 英国社交界ガイド』(河出書房新社 ふくろうの本)を読む。副題が「エチケット・ブックに見る19世紀英…

二宮敦人『最後の秘境 東京藝大』を読んで

二宮敦人『最後の秘境 東京藝大』(新潮社)を読む。副題が「天才たちのカオスな日常」というもの。二宮の妻が藝大彫刻科に在籍している関係から、藝大生たちにインタビューしてそれをまとめたもの。事実面白い内容だが、出版社がことさら面白おかしく宣伝し…

マナーとは何か――村上リコ『図説 英国社交界ガイド』を読む

村上リコ『図説 英国社交界ガイド』(河出書房新社 ふくろうの本)を読む。副題が「エチケット・ブックに見る19世紀英国レディの生活」。18世紀の産業革命の結果、19世紀にイギリスではブルジョワジーが繁栄を極めた。豊かになった中流階級が貴族や地主たち…

驚くべき社会の変動

マッキンゼーが驚くような未来を予測しているという。 車の自動運転化は、職業運転手を不必要にし、交通事故の減少によって保険業界を激変させる。人工心臓への需要を高める可能性もある。死亡事故が減ると臓器の提供者が減るからだ。 ひとつのブレークスル…

佐藤優『君たちが知っておくべきこと』を読む

佐藤優『君たちが知っておくべきこと』(新潮社)を読む。副題が「未来のエリートとの対話」とあって、灘高校の生徒たちと3年にわたって3回対話したことの記録である。2013年と2014年、2015年のそれぞれ4月に灘高生たちが佐藤の家に集まって対話というか、佐…

仏国務院副院長が語る憲法

フランス国務院副院長ジャンマルク・ソヴェが憲法について語っている(朝日新聞、12月2日付け「オピニオン&フォーラム「憲法の価値を守るもの」)。 フランスの国務院の役割は、政府提案の法律が憲法や国際条約に照らして適当か否かを答申したり、行政裁判…

お客様は神様

朝日新聞の「オピニオン&フォーラム」で「過労をなくすには」をテーマに3人が意見を寄せている(11月29日)。電通で起きた過労による自殺をめぐって対策案を提案しているが、その中でネットニュース編集者の中川淳一郎が、大手広告代理店は給料もいいし社会…

永六輔『職人』を読む

永六輔『職人』(岩波新書)を読む。1996年初版発行、先に永が亡くなったためか、書店で平積みになっていた。私が購入したのが2014年発行の26刷りだった。人気のある著者のロングセラーだ。 永は通産省が禁止した曲尺、鯨尺を職人たちに届けるために、逮捕覚…

東京の海抜(その4)

東京中央〜東部の海抜。海に近い勝どき駅が海抜1.6mなのに、内陸の墨田区中央の八広が海抜−1.4mだ。縁の方が高くなっている。 東京メトロ半蔵門線・銀座線・千代田線 表参道駅:海抜33.7m 東京メトロ日比谷線 六本木駅:海抜31.6m 東京メトロ銀座線 外苑前駅…

紛らわしい硬貨

娘がネットで購入した品代を私が立て替えていた。それを大きな札で支払ってくれるというので釣りが必要になったが、手許に100円硬貨がなかった。しかたなく貯金箱から数枚の100円玉を出して娘に渡そうとした。父さん、これ違うよ、100円じゃないよ。何を言っ…

名前の読み方

キラキラネームとやらが流行っているらしい。小学校で新入生の名前を先生が読めるのがやっと3分の1だと聞いた。最近知った名前は「一二三」と書いて「ワルツ」と読むと言う。実は戸籍には読み方を規定する規則はない。仮名はともかく漢字をどのように読むか…

東京の海抜(その3)

東京中央〜東部の海抜。 東京メトロ半蔵門線・銀座線・千代田線 表参道駅:海抜33.7m 東京メトロ副都心線 北参道駅:26.3m 都営地下鉄大江戸線 国立競技場駅:海抜24.9m 東京メトロ東西線 神楽坂駅:21.9m 東京メトロ千代田線 千駄木駅:6.7m 東京メトロ千代…

相川俊英『奇跡の村』を読んで

相川俊英『奇跡の村』(集英社新書)を読む。過疎化によって消滅するのではないかと噂されている地方自治体。その中でよく健闘している3つの村や町を訪ねて、それらの秘密を解き明かしている。 最初に取り上げられたのが長野県下伊那郡下條村。飯田市よりさ…

片山杜秀『見果てぬ日本』を読む

片山杜秀『見果てぬ日本』(新潮社)を読む。副題が「司馬遼太郎・小津安二郎・小松左京の挑戦」というもの。小松に未来への総力戦、司馬に過去へのロマン、小津に現在との持久とのキャッチを付している。 小松は未来を語る。1970年の大阪万博のテーマ「人類…

模索舎という書店へ行ってみた

先月朝日新聞に模索舎という名の書店が紹介されていた。まだ営業しているんだと驚いた。模索舎は40年ほど前何度か出入りしていた。客として本を買っていただけだが。新宿の目立たない片隅に出店していて、政治的に過激な本を扱っていたという印象がある。政…