どどめ色という不思議な色

 朝日新聞校閲センターの佐藤司が「ことばサプリ」というコラムに「どどめ色」を取り上げていた(620日、朝日新聞)。校閲センターといえば言葉の専門家、半端な部署ではない。ただ、このことについては書きづらく2か月近く取り上げるのを躊躇してきた。

 「どどめ色」と聞いて、どんな色を思い浮かべますか。ことばを耳にしたことがあっても、色まで知っている人は多くないかもしれません。

 この色の名前が今も記憶に残る秋田県の女性の話です。小さいころ、テレビのアニメ番組を見ていたら「どどめ色のワンピース」と響いてきました。「どどめ色って何色?」と不思議に思ったそうです。

 私にもどんな色か分かりません。方言なのでしょうか。興味がわいて全国の教育委員会388カ所の職員に協力してもらい、どんな色だと思うかをアンケートしてみました。

  その回答が、「暗い色」「濁った色」「黒ずんだ色」「冬の曇り空の色」「絵の具を全て混ぜたような色」「プールで体が冷えた人の唇の色」「体の一部をぶつけ、あざになった時に父から言われた色」

 さらに関東西部ではどどめは桑の実のことだという。「実が熟すと赤から紫、さらに黒へと変わり、口に含むと甘酸っぱい味がしたとか。どどめ色は、熟した桑の実の色のことを言うそうです」。

 (ここから先はかなり下品な内容になるので、嫌いな方は読むことをお勧めできません)

 朝日新聞校閲センターの人のコラムとは思えなかった。こんなことも知らなかったのかという驚きと、生まれも育ちも上品なんだろうなあとの驚き。私もこの言葉を知ったのは長野県から東京へ出てきた20歳過ぎことだった。さてどこで教わったのか。

 娘がまだ幼稚園にも行っていないくらいのとき、友人たちが集まって家族ぐるみの忘年会をした。どこの子どもたちも同じくらいの年齢だった。大人たちが飲んでいたとき、子供たちもワーワー遊んでいた。子どもたちは色鬼を始めた。色鬼は鬼になった子がなにかの色の名前を叫び、その色の物を見つけて掴まると鬼に捕まらないという遊びだ。飲み疲れたI田君がそこに加わって、鬼になり「どどめ色」と叫んだ。子どもたちにとって知らなかった色を知っただけだし、お母さんたちにとっては初耳の言葉で特に反応はなかった。男たちはまたI田君の悪趣味が始まったと思っていたのではないか。

 実は私たちの知っていた「どどめ色」とは、女性器の変色していった色のことだった。たいていの大人の男たちはそう思っているのではないか。人前で口にしてはいけない隠語だった。女性器も男性器も荒淫によって変色すると信じられていた。その変色した結果をどどめ色と言ったのだ。本当かどうかは知らない。

 矢島渚男という蛇笏賞を受賞した偉い俳人がいる。読売新聞の俳壇の選者もしている。その渚男の句、

 

わ が 魔 羅 も 美 男 葛 も 黒 ず み し

 

 ビナンカズラはサネカズラとも言い赤いきれいな実を付けるが熟すと黒ずむのだろうか。渚男の魔羅が黒ずんでいるなんて本当だろうか。この偉い俳人に高校のとき日本史を教わっている。ちょっと怖い先生だったが荒淫に励むような人柄には見えなかったし、句集を読んでもそんな印象はない。ちなみに現在の私はこの句を詠んだ当時の渚男より年上だが、魔羅はきれいな肌色で、いかに私が精進した生活を送って来たかを証明している。I田君の魔羅が黒ずんでいるか、今度聞いて見よう。