湊千尋『インフラグラム』を読む

 湊千尋『インフラグラム』(講談社選書メチエ)を読む。インフラグラムという言葉は湊の造語で、「情報化社会のインフラとなった写真や映像」のことだという。デジタル化されて写真や映像は世界を席巻している。世界に溢れている。
 港はデュシャンを参照したり、事件における捜査用似顔絵描きに言及したり、三上晴子のインスタレーションを援用したり、話題が多岐にわたる。2章と3章は軍事の分野における映像が取り上げられる。その中でアメリカが世界に張り巡らせている軍事基地について、基地帝国という概念を引用する。アメリカの支配構造について、領土を拡大する植民地ではなく、冷戦で勝ち取ったテリトリーに排他的な軍事基地を増やしていって、それらの集合で成り立っている領土を「基地帝国」と名づけていると。
 シナイ半島の基地からアメリカの大富豪ハワード・ヒューズの飛行機熱、武器として開発されたドローンなど、話題が次々と広がる。
 最後の5章で、東松照明やその弟子比嘉豊光の写真を通じて沖縄が語られる。
 沖縄についてチャルマーズ・ジョンソンアメリカ帝国の悲劇』(文藝春秋)の文章が引用されているが、これが興味深い。

日本政府は長年にわたり、アメリカ軍を沖縄に封じ込めておくためにあらゆることをしてきた。日本にあるアメリカ軍基地の約75%がこの島に置かれているが、沖縄は日本の国土全体の1%以下しか占めておらず、日本でいちばん貧しい県である。島と日本との関係は、プエルトリコアメリカの関係によく似ている。東京の政府はこの取り決めが気に入っている。国民が日本の領土にアメリカ軍の駐留を許すのは、自分たちの見えないところにいる場合だけだということを知っているからだ。

 個々の話題はとても興味深いのに、映像が世界を席巻していることを軸にして様々な事柄に話が飛んでいく。そのあたりのまとまりに少し無理があるのではないか。映像や写真と、社会問題と、2極に分かれている印象が強かった。

 

 

 

インフラグラム 映像文明の新世紀 (講談社選書メチエ)

インフラグラム 映像文明の新世紀 (講談社選書メチエ)