小島庸平『サラ金の歴史』(中公新書)を読む。新聞の新刊広告を見ても興味が湧かなかったのに、中央公論社販売部のTwitterにPOPが載っていて俄然読む気になった。
これは新書史に名を残す傑作だ! 読んで後悔はさせません。
僕はサラ金を責められない
本書を読んで不覚にもそう思ってしまう自分がいました。これまでサラ金業者は、一方的に糾弾されるだけのことがほとんどでした。もちろん、過剰な取り立てで人々を破滅に追い込んだことは許されることではありません。ただし、本書はサラ金業者にとっての合理性を理解することに努めていて、読めば決して簡単にサラ金だけが悪だと切って捨てることが出来なくなり、世の中の複雑さを思い知ります。
それだけでなく、「貧民窟の素人高利貸」、「現金の出前」、「団地金融」などなど、サラ金の歴史には、テレビCMのイメージからは、想像もつかないパスワードが満載で、驚きの連続です!
いつの時代も、そして今も、形を変えて身近にあり続ける「金を貸す/借りる」という行為が、近現代の日本でどのように存立したのか。趙ユニークな日本経済史としてもまさに傑作です!
ほとんどこのPOPが言いつくしている。とても面白く興味深く読んだのだった。
サラ金の歴史を、戦前の素人高利貸から質屋、月賦、そして団地金融へと辿る。団地金融とは公団住宅(現在のUR都市開発)の住民向けの融資だが、当時公団へ入居するには審査が厳しく一定の所得が必要だった。「団地には一定以上の支払い能力を持ち、貸し倒れリスクの低い人びとが集住している」と踏んだ。
はじめサラ金は融資申込者の勤務先を上場企業に限っていた。やがて非上場の中小企業の社員にも融資を広げていく。さらに主婦やアルバイトなどにも。
サラ金企業の分析も興味深い。アコム、プロミス、レイク、武富士、アイフルなど大手サラ金業者の創業者が紹介される。やはり悪評高かった武富士の創業者武井保雄は半グレで左腕に刺青を彫っていた。強姦未遂や傷害で逮捕された過去もある。
サラ金が広く一般の人たちに融資をすることによって貸し倒れの事例も増える。利率も高利であって、取り立ても厳しくなる。債務者の自殺・家出・家庭崩壊などが問題になり、サラ金規制が検討される。サラ金側も議員に働きかけて規制を骨抜きにすることを計る。
外為法の改正でアメリカなどの外資の消費者金融が日本に上陸する。日本のサラ金がどうやって外資を駆逐したのか。
サラ金規制法の成立でサラ金業界は冬の時代を迎える。プロミスが経営危機に陥る。サラ金各社は銀行と提携し、その傘下に入ったりした。武富士はサラ金被害者の会の弁護士宅を盗聴するなどして強制捜査を受け、社長の武井保雄は逮捕されて執行猶予付きの有罪判決を受ける。アイフルも執拗かつ威圧的な取り立てで問題になっていた。
社会の批判を受けて改正貸金業法が成立する。上限金利が20%に引き下げられ、グレーゾーン金利は消滅した。借入額の上限を原則年収の3分の1とする「総量規制」も導入された。アコムは三菱UFJフィナンシャルグループの子会社になり、プロミスは三井住友フィナンシャルグループの子会社になった。レイクはGEキャピタルから新生銀行に売却され、武富士は倒産した。
最後にほんの些細な校正ミスの指摘を。「1966年に直木賞を受賞した立原正秋(たちはらまさあき)『白い罌粟』は、そんなサラ金キラーを主人公に据えた小説である。」(p.154)とあるが、立原正秋のルビ「たちはらまさあき」は間違いで、正しくは「たちはらせいしゅう」と読む。