千野栄一『プラハの古本屋』を読む

 千野栄一プラハの古本屋』(中公文庫)を読む。千野栄一はロシア語やチェコ語などスラブ語の専門家だ。田中克彦と並んで私の好きな言語学者だ。このエッセイがとても面白い。

 千野は若い頃チェコに留学した。その頃の体験を書いている。言語学者だから言語に関する話題が多いが、それが少しも堅苦しくなくとにかく面白い。名文というのはこういうのを言うのだろうと思った。決して華麗な文体なんかではなく、文の構成が優れていて、楽しく読めて説得されてしまう。

 「社会主義国の古本屋では、良い本は店頭より奥にしまいこんである。店主と打ち解け、バックヤードに入れるかどうかで勝負が決まる」という世界なのだ。そこでいかにして求める本を入手したか、ある種の武勇伝が語られる。その内容から気持ちの良い成功譚ばかりだった。

 田中克彦モンゴル語の、千野栄一はスラブ語の専門家だ。英仏独のような世界の中心言語ではなく、ある種周辺言語の専門家の視点はきわめて面白い。周辺からは世界が見えるからだ。