
東京広尾の山種美術館で「桜さくらSAKURA 2025」が開かれている(5月11日まで)。桜をテーマにした日本画を並べている。何しろ天下の山種美術館だ。大家の名作がそろっている。速水御舟の「夜桜」、奥田元宗の「奥入瀬(春)」、松岡映丘の「春光春衣」、小茂田青樹の「春庭」、川合玉堂の「春風春水」、そして目玉は奥村土牛の「醍醐」。
私はこの「醍醐」を見るために来たのだった。「醍醐」は京都醍醐寺三宝院の「太閤しだれ桜」を描いたものだという。展覧会のちらしの表紙にも使われている。制作は1972年。
「醍醐」の実物を見るのは初めてだった。これは見たかった。なぜかと言えば、わが師山本弘の「銀杏」はこの「醍醐」を参照して描かれたと思われるからだ。

山本弘「銀杏」油彩、F20号(72.5cm x 61.0cm)
イチョウの木の根元を描いている。おそらく夜だろう。背景の暗い紺色からイチョウの幹が浮き出ている。暗い紺色に青が混じり幹の輪郭を明るい空色が縁どっている。単純な造形だが、なぜ夜のイチョウを描いたのだろうと不思議だった。それが分かったのは奥村土牛の「醍醐」を知ったときだ。奥村は醍醐寺の満開の豪華な桜を描いている。「銀杏」は「醍醐」の構図を使っている。「醍醐」の華やかな構図を引用して山本は夜のイチョウを描いたのだろう。決して華やかではない暗い夜にすっくと立っているイチョウの力強い姿を。それは山本弘の自画像なのだ。
1978年10月の飯田市公民館での最後の個展で発表された。山本晩年の傑作のひとつだろう。
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「桜さくらSAKURA 2025」
2025年3月8日(土)-5月11日(日)
10:00-17:00(月曜休館)
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東京都港区広尾3-12-36
ハローダイヤル050-5541-8600
https://www.yamatane-museum.jp/