山本弘の作品解説(116)「一本の道」

山本弘「一本の道」(仮題)、油彩、F10号(天地53.0cm×左右45.5cm)

 1976年の飯田市勤労者福祉センターでの個展で発表され、1994年京橋の東邦画廊での第1回遺作展に展示された。東邦画廊では「傘」と題して展示され、以前ここでも「傘」として紹介した。今度機会があって30年ぶりに実物を見ることができた。その結果これは傘ではなく、山と道を描いているのに気付いた。

 真っ直ぐに伸びた一本の道は山本弘の主要なテーマの一つだ。道の先にはしばしば山や一軒家があったりする。隧道(トンネル)もあった。道=将来が隧道に続いているのは不安を抱えていたことを表しているのだろうか。三叉路も主要なモチーフだった。三叉路は将来の方向に対する悩みを表しているのではなかったか。

 本作の山は写実的な山には遠くほとんど記号的な三角形で、するとこの山は山本弘の芸術の理想を表しているのではないか。この道と三角形の山は水色の線で括られていて一つの形であるように描かれている。初めて完全な三角形の山を描いたことの意味は、自分の制作が芸術的完成に続いていると自負していることの表われだろう。道の右下には鳥の巣のような楕円形の中に白い卵のようなものが3つ描かれている。これは山本弘の妻と娘の3人の家族を表しているのではないか。

 山本はここで家族と共に自己の芸術がほとんど完成に近づいていることを自信を持って表明している、それがこの絵だと思う。まさに絵画による山本弘マニフェストなのだ。この時山本は46歳だった。