『O・ヘンリーニューヨーク小説集』を読む

 『O・ヘンリーニューヨーク小説集』(ちくま文庫)を読む。もう60年近く前に読んだ・ヘンリーの短篇集だが、本書はニューヨークを舞台にしたものを集めている。しかし、特筆すべきは訳者だろう。青山南+戸山翻訳農場 訳となっている。青山南は有名な翻訳者だが、この「戸山翻訳農場」とは何だろう。

 最後のページに訳者一覧として15人の名前が載っている。しかし青山南の名前はない。「解説」を青山南が書いていて、青山は早稲田大学でいくつかの翻訳の授業をもっていて、テキストとしてO・ヘンリーの作品を使用しているという。翻訳の授業に参加した学生が本書の翻訳者なのだった。彼等を戸山翻訳農場と名付けているのらしい。

 そして「ここにまとめるにあたって勝手に手を加えりしたのも筆者だから、訳文に対する最終的責任は筆者にある」という。

 このことは英文学の訳者として多くの小説を翻訳した大久保康雄や田村隆一を思い出す。ナボコフの『ロリータ』が最初に出版されたとき、丸谷才一が書評でその翻訳を批判した。それは大久保康雄の翻訳だったが、大久保から丸谷に直接手紙が来て、あの翻訳者は私ではありませんと書かれていた。実は大久保も田村隆一も多くの翻訳者のスタッフを抱えていて、彼らに翻訳の仕事を卸して、自分の名前を翻訳者として出版していたのだった。

 青山南は同じようなことを、こちらは「戸山翻訳農場」と名付けて出版したのだった。

 O・ヘンリーの小説は、さすがに100年前のものなのでそれなりに古く、現代の日本では物足りないと考える読者が多いだろう。