須藤靖『宇宙は数式でできている』を読む

 須藤靖『宇宙は数式でできている』(朝日新書)を読む。普通だったら、「数式でできている」なんて本は難しそうで読まない。でも著者の須藤は東大の宇宙物理学の教授でありながら、洒脱なエッセイストで、以前は読売新聞の、現在は朝日新聞の書評執筆者だ。須藤の書評は信頼がおけるし、不定期に連載している東大出版会の雑誌『UP』のエッセイ「注文(ちゅうぶん)の多い雑文」はいつも届いた雑誌の最初に読むほど面白い。

 本書は題名どおり宇宙の仕組みや誕生以後の歴史をすべて数式で記述できると、それを具体的に解説している。だが、数式は難しく読者もアレルギーがあるだろうからと、数式は理解しなくても眺めるだけでいいと、本文に誘ってくれる。須藤はエッセイや書評で身につけたと思われる、読みやすい軽めの文体で難解な宇宙の成り立ちや原理をやさしく楽しく教えてくれる。

 今まで宇宙論に関する素人向けの解説本をたくさん読んできたが、こんなに読みやすくて分かりやすいものは本書がダントツだと思う。図解も豊富で、ところどころコラムのように素人が質問し、須藤が答えているのが挿入されていて、これも理解を手伝ってくれる。

 途中、「一般相対論を巡る歴史から学ぶこと」という箇所があり、箇条書きで紹介されている。それを見ても、須藤の分かりやすさが想像できるだろう。

 

・物理学の基礎法則は、この世界(あるいは宇宙)のどこかなに刻み込まれている。物理学者は、それらを発明するのではなく、発見するのである。

理論物理学者が法則の発見に至るために用いる指導原理は、多くの場合、法則は美しいという信念である。それが本当に正しいかどうかは証明できないものの、今まで知られている物理法則は、そのような信念を拠りどころとして発見されてきた。

・発見された法則を数学の方程式として書き下してみると、それは直感的予想とは異なる解を持つことがある。その場合、その方程式ではなく、今までの直幹のほうが間違っている可能性が高い。数学的結論を疑うのでなく、逆にそれを信じて観測的・実験的に検証すれば新たな世界観が見えてくる。このように方程式の数学的な解は、理想化された非現実的なものどころか、必ずこの宇宙のどこかに対応物が実在しているらしい。

・物理法則は、最初に発見した人の理解を超えた重大な意義を持つ。そしてそれは、長い時間をかけて次の世代の研究者たちが徐々に明らかにする。正しい理論の予言は、当初いくら検証困難であると考えられようとも、やがては観測あるいは実験の進歩によって直接検証可能となる。

 

 須藤は結論として、「数学的な論理体系と実在する宇宙は同じものである」と言う。さらに須藤の本を読んでみたくなった。