エッジでサラ・ケイン作、川口智子演出のパンクオペラ『4時48分 精神崩壊』を見る

 

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 渋谷のスペースエッジでサラ・ケイン作、川口智子演出のパンクオペラ『4時48分 精神崩壊』を見る。作曲が鈴木光介。
 サラ・ケインはイギリスの劇作家、1971年生まれだが、28歳のときうつ病自死している。川口は10年前からサラ・ケインの芝居を上演している。アウシュヴィッツを描いた芝居だということだったが、チョコレートのトリュフを20個以上実際に役者が食べるシーンがあり、それは過食症を思わせた。過食症と拒食症は摂食障害の二つの表れで、悪化するとしばしばうつ病になり自死することもある。サラ・ケインのうつ病もそのことと関係があるかもしれない。
 今回予定していた香港だか台湾のダンサーがコロナ騒動で来られなくなり、パンクオペラとうたっていたが、ダンサー抜きのいわば演奏会形式の上演だった。舞台には楽器を演奏する鈴木大介と3人の歌手が立っていた。スペースエッジは仮設のような空間で、芝居小屋としてはとても狭く、ベンチに座る私と歌手は1メートルほどしか離れていない。
 英語原文と日本語訳の歌詞がすべてスクリーンに字幕で映し出され、それを歌手たちが英語で歌っていく。歌詞を追っていくと終始暗く辛い内容が歌われている。しかし鈴木の曲は美しい。歌手たち(滝本直子、小野友輔、中西星羅)も良かった。
 川口によるサラ・ケインの芝居の日本での上演は初演からもう10年になる。うつ病自死したサラ・ケインの芝居が悲惨で厳しいものなのはある種納得できるような気がするが、それを10年以上繰り返し取り上げている川口の心情は何なんだろう。見たところ陰のない明るいお嬢さんに見えるのだけれど。
 字幕の使い方や、同じ芝居を繰り返し取り上げて作り込んでいく方法に、師事した佐藤信の影響が感じられる。そして川口の選ぶスペースがこのエッジであったり、立教大学の教室であったり、東京ワンダーサイトのような本来芝居小屋でない場所ばかりなのも、佐藤信黒テントに拘っていた影響があるのだろうか。