若手評論家を批判する荒川洋治

 荒川洋治『霧中の読書』(みすず書房)にある評論家についての激しい批判がある。評論家の名前は書かれていない。

 最近の批評家の特徴はどんなところにも顔を出し、まことしやかなことを言う点にある。ある若手の批評家は、文芸・学術各誌に登場。石牟礼道子について書き、岡倉天心について書き、鈴木大拙原民喜についても書き、河合隼雄須賀敦子について連載し、漱石についての本、茨木のり子の詩についての放送テキストまで刊行。それらはいずれも本格的な長さのもの。誰についてもたくさん書けるのだ。この人は、すべての学者、芸術家の専門家なのかもしれない。読んでみると自信家であることはわかるが、特別な印象も魅力もない。その人らしさもない。先日詩集を出して受賞したので読んでみたら、素朴なのはいいが、ものの見方がすこぶる単純。ほんとうはあまりものを考えない人なのではないかと思った。自分というものがない人だから見境なく書けるのだ。この時代ならではの知性の人である。

 名前が書かれていないのでネットで検索したら分かった。その批評家について、『NHK100分de名著』の著者紹介より、

若松 英輔
1968年新潟県生まれ。批評家、随筆家。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。慶應義塾大学文学部仏文科卒業。2007年「越知保夫とその時代求道の文学」にて第14回三田文学新人賞評論部門当選、2016年『叡知の詩学小林秀雄井筒俊彦』(慶應義塾大学出版会)にて第2回西脇順三郎学術賞受賞、2018年『詩集見えない涙』(亜紀書房)にて第33回詩歌文学館賞詩部門受賞、『小林秀雄美しい花』(文藝春秋)にて第16回角川財団学芸賞受賞。著書に『イエス伝』(中央公論新社)、『魂にふれる大震災と、生きている死者』(トランスビュー)、『生きる哲学』(文春新書)、『霊性の哲学』(角川選書)、『悲しみの秘義』(ナナロク社)、『内村鑑三悲しみの使徒』(岩波新書)、『種まく人』『詩集幸福論』『常世の花石牟礼道子』(以上、亜紀書房)、『内村鑑三代表的日本人永遠の今を生きる者たち』(NHK出版)など多数。

 「自分というものがない人だから見境なく書けるのだ」。荒川は激しい人なのだ。

 

 

霧中の読書

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