山本浩貴『現代美術史』を読む

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 山本浩貴『現代美術史』(中公新書)を読む。これがとても素晴らしい。副題が「欧米、日本、トランスナショナル」となっていて、欧米の現代美術にも詳しく、日本の現代美術の扱いも驚くほど詳細に目配りしている。履歴を見ると33歳の若手研究者で、一橋大学社会学部を卒業したあとで、ロンドン芸術大学で学び、その研究センターに博士研究員として在籍、韓国光州のアジア・カルチャー・センターでのリサーチ・フェローを経て、現在は香港理工大学デザイン学部ポストドクトル・フェローとある。
 大きな構成として「欧米編」「日本編」「トランスナショナルな美術史」からなっている。欧米編ではランド・アートが語られ、ハプニング、フルクサスヨーゼフ・ボイス、シチュアショニスト・インターナショナル、リレーショナル・アート、ソーシャリー・エンゲージド・アート、コミュニティ・アートが紹介される。私には初めて聞く単語も多く、これが最先端かと教えられた。
 日本編では、九州派、具体美術協会、万博破壊共闘派、ハイレッド・センター、もの派、美共闘ダムタイプ、シミュレーショニズム、アーツ千代田3331などが取り上げられている。日本のアート・プロジェクトに「政治的メッセージや社会批評的視点を明確にした表現が少ない」ことを指摘し、

起源としての野外美術展が「社会的な文脈との接続というよりは、美術館の延長線上としての」空間的探究からなされたため、現在のアート・プロジェクトでも「社会的な文脈よりも空間的な文脈」が重視される傾向があると加治屋健司は主張します。

 トランスナショナルな美術史で、「国民国家を前提とした「ナショナル・ヒストリー」が自明のものとされ、国境線を越える存在はその「歴史」から除外されてしまうのです」と書く。そして戦後、差別に抗する芸術が登場し、フェミニズムやブラック・アートが台頭する。
 日本の事例として2016年に作られた小泉明郎の《夢の儀礼―帝国は今日も歌う―》が取り上げられ、高嶺格の「在日シリーズ」、神楽坂のギャラリーeitoeikoでの「在日・現在・美術」(2014年)が紹介されている。日本の戦争画では藤田嗣治と並べて、昨年発表された風間サチコの《ディスリンピック》が取り上げられるという新しさだ。
 わずか33歳という若く優れた現代美術史家の登場を喜びたい。