布施英利『わかりたい! 現代アート』を読む

 布施英利『わかりたい! 現代アート』(光文社知恵の森文庫)を読む。現代アートの解説書というか入門書なんだが、少し変わっていて、人名事典みたいな体裁になっている。全体を「モダン」と「ポップ」に分けて、それぞれ17人と18人(グループを含む)の作家を見出しとして取り上げ解説している。1人数ページ平均。
 まずモダンアートとは抽象絵画のことだと言い、カンディンスキーから始める。ついでモンドリアンマレーヴィチ、そしてクレー、ピカソデュシャンと続く。
 巨大な画面にジップという縦線を描いたバーネット・ニューマンについて、

……バーネット・ニューマンの絵には、「垂直」という方向性に対する強い思いが感じられます。それは数百万年前、人類が誕生した時に二足歩行の姿勢をとるようになった、人間の心の原型、人間の空間感覚、垂直への意志みたいなものが込められているのかもしれません。

 ここまで言ったら言い過ぎだろう。
 「モダン」で取り上げられた日本人作家は、河原温と関根伸夫の二人だけ。河原は日付絵画が語られる。関根はもの派の代表として取り上げられているようだ。関根は公園に円筒形の大きな穴を掘り、その掘った土を穴の横に円筒形に積み上げた「位相―大地」が有名だ。布施も「『位相―大地』は、その後、もの派の守備範囲を超えて、日本の現代アートにも様々な影響を与えていきます」と書いている。
 「モダン」はジェームズ・タレルの紹介で終わっている。
 後半は「ポップ」となる。「ポップとは何かといえば、日常品に目を向ける、ということであると思います」と布施は書く。最初にアンディ・ウォーホルが紹介される。また、「ポップ・アートとは、モダンにおいて台頭した「抽象絵画」に対しての、一種の逆襲であると言ってもいいのです。ポップ・アートとは、具象絵画、具象美術の再生なのです」とも。
 ソフトビニールで立体作品を作ったオルデンバーグ、旗を描いたジャスパー・ジョーンズと続いて、ドイツのゲルハルト・リヒターへ飛ぶ。デュシャンの登場で死んだ絵画がリヒターによって甦ったと。
 ポップでは日本人は3人と2グループが取り上げられる。赤瀬川原平会田誠名和晃平Chim↑Pomと目だ。目については初めて教わった。
 映画の一場面のようなシーンを自分で演じて撮影したシンディ・シャーマンは優れた作家だが、それを真似た森村泰昌を私はどうしても評価することができない。
 草間彌生については、ダミアン・ハーストの項で少しだけ触れられている。
 全体によくまとめられている。現代アートについて人名事典的に語るというのは布施の手柄だろう。入門書らしく記載はやさしくわかりやすい。それだけ物足りないのも事実だが。また入門書の性格から網羅的であって、すべてを肯定的に書いている。やむを得ぬこととはいえ、それも物足りなかった。
 著者略歴を見ると、1960年生まれでまだ50代なのに、著書が50冊もあるという。
 なお、現代美術の入門書なのに、作品の写真はピカソの「ゲルニカ」だけ。その代わりに、TYM344という美術家のイラストでそれに代えている。なんだかなあ。


わかりたい! 現代アート (知恵の森文庫)

わかりたい! 現代アート (知恵の森文庫)