東京新宿初台にある東京オペラシティアートギャラリーで「単色のリズム 韓国の抽象」が開かれている(12月24日まで)。これがとても良かった。韓国の抽象作家19人を集めた意欲的な企画展だ。美術館が配布する充実したハンドブックから、
韓国の抽象絵画は、欧米の同時代美術を受容する過程で東洋的な精神性をたたえた韓国固有の表現として確立し、ことに1970年代に発展した「単色画(ダンセッファ)」は、極限までそぎ落とされたミニマルな美しさと繊細な息づかいを特徴として豊かな展開を見せました。この動向を担った作家たちは、本国の韓国と並んで日本でもさかんに紹介され、70年代から90年代にかけて両国アートシーンの活発な交流をもたらしました。
本展は、こうした韓国の抽象絵画の流れを、19人の作家の作品を通じて見ようとするものです。日本による占領を経て、大戦後はイデオロギーの対立による混乱を経験した韓国において、作家が作品の制作、発表を行うこと自体にも困難がありました。また、日本をはじめとする他国の影響下にあった韓国の美術が、自国のアイデンティティを希求する衝動は強固なものであったと想像できます。(後略)
そしてこれら19人の作家を、大きく3つに分けて紹介している。
・大戦前の日本の制度の下で教育を受け、日本や欧米に渡って同時代の抽象芸術のさなかに身を置いた作家たち
・大戦後の新しい制度のもとで美術教育を受け、アンフォルメルなど欧米の同時代美術の影響を受けながら、のちに「単色画」とよばれる韓国独自の抽象を生んだ作家たち
・こうした先人の精神を受け継ぎ、現在の韓国美術を牽引する世代
このハンドブックは48ページもあり、19人の作家の概要と作品1点ずつがカラー写真で紹介されている。入場者全員に配布されるのだ。
紙に穴をあけたり、無数の小紙片を輪にして貼り込んだ権寧禹(クォン・ヨンウ)。麻布に絵具を浸み込ませたモーリス・ルイスのような尹亨根(ユン・ヒュングン)。白い油絵具でキャンバスを塗りこめた後、絵具が乾く前に鉛筆の線を走らせたパク・ソボ。粗く織られた麻布の裏側から強い圧で油絵具を表側に押し出した作品の河鐘賢(ハ・チョンヒュン)。河の良い作品が四谷三丁目駅近くの韓国文化院のロビーに展示されている。
驚いたのは、主催の東京オペラシティアートギャラリーの所蔵品が30点以上、ほかに三重県立美術館、下関市立美術館、福岡アジア美術館、広島現代美術館などの所蔵品がそれぞれ10点前後あることだ。ハンドブックに「70年代から90年代にかけて両国アートシーンの活発な交流」とあるが、その後韓国の現代美術が今回のようにまとめて紹介された例は少なかったのではないか。日本で発表しても思わしい反響が得られないからと、最近は日本を飛び越えてアメリカやヨーロッパで発表していると聞いたことがある。これだけの優れた作家たちを擁しているのだから、もっと両国の活発な交流が望まれると思ったのだった。
なお、私は土曜日に行ったので会場の撮影ができなかったが、毎日曜日は撮影が可能だという。
権寧禹(クォン・ヨンウ)
尹亨根(ユン・ヒュングン)
パク・ソボ
河鐘賢(ハ・チョンヒュン)
以前このブログに韓国文化院の河鐘賢の作品を紹介した。
・韓国の現代美術を見たい(2013年12月9日)
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「単色のリズム 韓国抽象」
2017年10月14日(土)―12月24日(日)
11:00−19:00(金土は20:00まで)月曜休館
入場料一般1200円
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東京オペラシティアートギャラリー
東京都新宿区西新宿3-20-2
電話03-5777-8600(ハローダイヤル)
http://www.operacity.jp/ag
※京王新線初台駅下車 東口新宿寄りの改札を出てそのままビルに入り、エスカレーターを昇った3階