橋爪大三郎『正しい本の読み方』を読む

 優れた社会学者である橋爪大三郎の『正しい本の読み方』(講談社現代新書)を読む。8つの章の見出しを拾うと、「なぜ本を読むのか」「どんな本を選べばよいのか」「どのように本を読めばよいのか」「本から何を学べばよいのか」「どのように覚えればよいのか」「本はなんの役に立つか」「どのようにものごとを考えればよいのか」「情報が溢れる現代で、学ぶとはどういうことか」となっている。ずいぶん初歩的な印象だ。
 読んでみれば、やはりヤングアダルト層向けに書かれた読書の入門書だということが分かる。講談社現代新書には、岩波ジュニア新書やちくまプリマーブックスに相当する中高校生用の叢書がないので、大人用の現代新書に分類されているのだろう。文章も内容もとてもやさしく書かれている。やさしい内容だけれど、一方大胆なことが書かれてもいる。

 書店で、これが話題の本です、ベストセラーです、と平積みになっている本がある。
 私は、いまどんな本がベストセラーなのかは、いちおう気にするけれど、でも読むことはほとんどないですね。やはり、友人の評判のほうを参考にする。「あれ、読んだ?」みたいな。
 ベストセラーには、そんなにいい本はない。よって、ベストセラーをスルーしても、そんなに実害がない。
 ベストセラーだから、買う。これは最悪。
 ベストセラーを買うのは、最悪ではない。いいですか。ベストセラー「だから」買う、が最悪です。

 本の読み方のテクニックを教えてくれている。
 アクション1.大事なところに印をつける。鉛筆でつければ売ることになったときに消せる。
 アクション2.反論のあるところ、意見の違うところに、それを示すマークをつける。
 アクション3.マーカーを使う。マーカーを引いてしまうと古本屋に売りにくくなってしまうけど、ずっと持ってるだろうと思う大事な本にはマーカーを引いてしまう。
 いわゆるカードは作らない。カード作りは時間がかかる。時間の無駄。カードにはKJ法とかいろいろな種類があって、私(mmpolo)も一時作っていた。
 速読法はあんまり信用しないほうがいい。速く読めばいいというものではないし、ほんとに大事な本は速く読めない。
 木下是雄『理科系の作文技術』(中公新書)は役に立った。すばらしい本だ。この本をマスターすれば、文章を書くプロになれる。
 さて、ここまではやさしく書かれていてよく分かる。ところが具体的な読み方を取り上げるのに選ばれたテキストは、マルクスの『資本論』と、レヴィ=ストロースの『親族の構造』と『神話論理』。この章が本当に難しい。バナナを食べていたら中に硬い種が入っている感じ。私にはこの種が硬くて食べられなかった。
 ミシェル・フーコーの『知の考古学』について日本語訳がひどいと書いている。

 ミシェル・フーコーという人がいて、『知の考古学』という本を書きました。日本語訳が出たけれど、ひどい訳だった。そこで新しい訳が出たんだけれど、やはりひどい訳だった。読んでも全然、わからない。
 大事な本なので、ぜひ読みたい。仕方がないから、フランス語の原典と並べて読んでいくと、ごっそり誤訳があることがわかった。

 この新しい訳本をamazonの読者評価で見ると、五つ星がたくさん付いていて、みな訳が良いとほめている。Amazonの評価なんてあてにできないことが分かった。
 橋爪は大著者を読めと言っている。大著者は100人くらいだという。その一覧表がある。ブッダの『心理のことば』、『聖書』、『イリアス』、プラトンの『ソクラテスの弁明』などから、シェークスピアの『ハムレット』、メルヴィルの『白鯨』、プルーストの『失われた時を求めて』、ホッブズの『リヴァイアサン』、ニーチェフッサール毛沢東ラカンなどの本が100冊挙げられている。私は27冊しか読んでいなかった。
 中高校生に勧めたい。なかなか役に立つ本です。