講談社現代新書の『おどろきの中国』は橋爪大三郎と大澤真幸、それに宮台真司という正に最前線の社会学者たちの鼎談をまとめたもの。これがすこぶるおもしろかった。
3人は一昨年の秋に中国を旅行して回った。旅行中、何人もの中国の社会学者たちと議論し、中国の一般家庭を訪問し、中国の会社まで見学している。その後、3人で中国のこと、日中関係について、また日本や中国の将来について語ったものが本書だ。
通常の新書の5割増し、380ページもある内容は4部に分かれている。「中国とはそもそも何か」「近代中国と毛沢東の謎」「日中の歴史問題をどう考えるか」「中国のいま・日本のこれから」という大見出しがそのまま内容を伝えている。
中国はヨーロッパで言ったらEUみたいなものだという。多くの民族が中国を構成している。北京語、広東語、上海語、四川語、湖南語など、お互いに通じない。だが漢字を使えば理解できる。中国の各地域はヨーロッパの各国みたいなものだ。それが2,000年以上前に秦によって統一された。それは地形の平坦さによるものが大きい。アルプス山脈や地中海など、交通が困難なヨーロッパに比べて、中国は平坦な土地なので移動のコストが安く、政治的統合のコストが安かった。
キリスト教文明では神なりイエスなりが絶対権力を持つ人格だ。最後の審判もあり、神は政治権力者が何をするか見ている。だから権力者は神に対して責任を持ち、被支配者に対して説明する責任を持つ。ところが中国では天命によって権力が与えられる。天は人格がない。権力者に対するチェックがない。そこで、政治権力者としてふるまうというパフォーマンスをやり続けるのが自己正当化になる。
日中戦争は奇妙な戦争だった。日本陸軍はソ連を仮想敵国と考えていた。中国の好意的中立を確保することを目的に軍事行動を起こしたが、国民党軍を追い回し、南京まで攻略してしまった。日本軍の侵攻で国民党は英米の支持と援助を取り付けることができた。
文化大革命は否定的に語られるが、一方、文革は市場経済に適さないような様々な中国の伝統や習慣、行動様式を一掃して、伝統の桎梏から解放された人々を結果的に大量に生みだし、そういう状況で改革開放が行われたので、市場経済が成功した。
さらに台湾問題、北朝鮮問題に関しても具体的で有効と思われる提言がなされている。
鼎談なので話が具体的で多岐に渡り、私はうまくまとめることができない。しかし、本書はきわめておもしろく、示唆に富んでいる。中国のことをこんな風に見ればよいのかと、何度も眼のウロコが落ちるのを実感した。
それにしても、日中・日韓・日朝の外交政策に関して、民主党も自民党も政権の中枢にいる連中は本当に頭の悪い人たちばかりだということがよく分かったのだった。政治家必読の書かもしれない。

- 作者: 橋爪大三郎,大澤真幸,宮台真司
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/02/15
- メディア: 新書
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