林洋子『藤田嗣治 手紙の森へ』を読む

 林洋子『藤田嗣治 手紙の森へ』(集英社新書)を読む。藤田の手紙を中心にして藤田の一生を追っている。集英社新書ヴィジュアル版というのが正式名称のシリーズの1冊で、名前のとおり多くのカラー図版を使っている。そのため定価が2割方高くなっている。手紙も豊富に取り上げられていて、藤田の手紙は彩色したイラストが描かれているので、ほとんどカラー図版として掲載されている。
 ただ新書版であるので、写真は必ずしも大きくはなく、手紙の文字が十分に読めるというわけにはいかない。また藤田の手紙は長いので、という断りがついていて、その読みにくい手紙の文面が活字にされているわけでもない。癖のある字なのでいっそう読みにくい。
 藤田のことをよく知らないのにこんなことを言うのもおこがましいが、伝記部分は要点をかいつまんでいて、分かりやすい。
 目次を拾うと、「第1信 明治末の東京からはじまる」「第2信 1910年代の欧州から、日本の妻へ」「第3信 1920年代のパリで」「第4信 1930年代 中南米彷徨から母国へ」「第5信 太平洋戦争下の日本で――後続世代へ」「第6信 敗戦の影――パリに戻るまでの4年半」「第7信 フランク・シャーマンへの手紙」「終信 最晩年の手記、自らにあてた手紙としての」となっている。
 君代夫人の横顔が描かれているが、なるほど強情そうな性格もよく表されている。作品に劣らず写真も多く掲載されていて、簡単な伝記として要領よくまとまっていると思う。新書版の藤田の伝記として読めば手ごろなのではないか。



藤田嗣治 手紙の森へ <集英社新書ヴィジュアル版>

藤田嗣治 手紙の森へ <集英社新書ヴィジュアル版>