ギャラリーTOMで若江漢字展を見て、若江と水沢勉の対談を聴く

東京渋谷のギャラリーTOMで若江漢字展が開かれている(4月5日まで)。それを記念して3月11日に若江と神奈川県立近代美術館館長の水沢勉との対談があった。テーマはデュシャンの「大ガラス」の解読についてだった。個展のちらしから、ギャラリーTOM名で記された文章を引用する。

100年の謎は解明された


美術家・若江漢字(1944〜)により、20世紀最大の謎とされたマルセル・デュシャン(1887〜1968)の「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」(1915〜1923)通称「大ガラス」が解明されました。これまで錬金術や機械化時代の不毛な男女の性愛を描いたものと解釈されてきましたが、不可解な図像を改めて分析すると、それは西洋美術史の伝統に根差したキリスト教を主題にしたガラス上の宗教画だったのです。「大ガラス」は、近代絵画が無視し続けた古典的要素、遠近法や宗教画といったテーマ主義の古典的諸要素を、こともあろうに前衛の帝王と呼ばれたデュシャンが積極的に取り入れ、斬新で独創的な手法によって蘇らせた驚異的な宗教画の大傑作だったのです。(後略)

 画廊には若江の大作「解読された聖母被昇天としての「大ガラス」、さえも」が展示されている。それがちらしに大きく印刷されている作品だ。

その横に若江の書いた文章が貼付されている。それを紹介する。

 これらラファエルの二作品がデュシャンの上下二段からなる「大ガラス」発想の原点である。
 天に昇天する花嫁は聖母マリア以外は考えられない。故にデュシャンの油彩画「花嫁」1、2、はマリアの図であり、しかもデュシャンはそれを解剖しキュビスム風に描いている。
 その一部が「大ガラス」上段左側に吊された花嫁、つまりマリアとして使われている。
 上段はシドニー・ジャニスが指摘したようにデュシャン流の聖母被昇天図であり、下段はマリアの結婚とイエス伝となっているとわたしは解釈した。
 下段左側の九つの鋳型=独身者たちとは、マリアとヨセフの許婚の場面であり、中心のチョコレート粉砕機はチョコレートが初夜に付きモノであることから、マリアとヨセフの結婚と新床(にいどこ)を暗示する生命のお宿りとしての永遠の命の噴水図とした。左の水車を右側に移し、私は水車小屋=イエス誕生のウマ小屋図として描いている。その上の三つの光輪は、三博士の頭上に輝く光輝であり、更にその上のレンズはイエスの誕生のベツヘルムの星なのである。
 チョコレート粉砕機上部のハサミはそのまま立てると十字架であり、それをとりまくロートは当然イエスの血を受けた聖杯となる。デュシャンの「大ガラス」とは実は現代美術的な手法で書かれた宗教画なのである。
                   2015年7月  若江漢字

 下の図はデュシャンの「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」通称「大ガラス」である。フィラデルフィア美術館に収蔵されているが、東大駒場博物館にも複製が展示されているという。

 デュシャンの生涯のテーマは「花嫁」だった。溺愛していた妹スザンヌが結婚したとき、処女が花嫁になったとデュシャンは考えた。花嫁は聖母マリアでもある。
 花嫁のテーマは遺作にも現れる。遺作はフィラデルフィア美術館に設置されている。とざされたドアがあり、その覗き穴から覗くと、裸の娘が両足を広げて寝ている。性器が正面に見えていて、左手は火のついたランプを掲げている。体の下には小枝が積まれている。
 若江はこれも聖母マリアだという。これはマリアの出産直後の状況で、陰毛がないのはマリアだから、ランプはイエスを出産して世界に光を与えたことを表わしている。柴の上に横たわっているのは燔祭を表わしているのだと。燔祭とはユダヤ教の儀式で、供えられた動物を祭壇で焼いて神に捧げたので、柴の上に横たわっている。
 対談が終わったあと、若江にこの内容をすでに発表したことがあるか問うとないという。今後発表する当てはあるかと問うと、これまたないという。どこかの雑誌などで発表してくれると嬉しいのだが。
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若江漢字展
2018年3月9日(金)―4月5日(木)
11:00−18:00(月曜休館)
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ギャラリーTOM
東京都渋谷区松濤2-11-1
電話03-3467-8102
http://www.gallerytom.co.jp