豊島区立郷土資料館の「アトリエのときへ」を見る

 東京池袋の豊島区立郷土資料館企画展示室で「アトリエのときへ――10の小宇宙」が開かれている(3月25日まで)。小さくだが「豊島区ミュージアム開設プレイベント」と銘打たれている。
 戦前の豊島区旧長崎村を中心とした地域には画家たちが集まるアトリエ村と呼ばれた一画があった。そこはまた池袋モンパルナスとも呼ばれていた。そこにかつて暮らした5人の作家のアトリエ映像を公開し、また10人の作家たちの作品を並べている。その10人とは、建畠覚造小熊秀雄、麻生三郎、寺田政明、鶴田吾郎、齋藤求、高山良策、吉井忠、桂川寛、入江比呂だ。とは言うものの会場は広くはなく、作品の点数も少ない。



 ここでは入江比呂を中心に紹介したい。入江の作品は彫刻が2点、ドローイングが1点展示されている。いずれも門田秀雄氏寄贈とある。門田はかつて入江未亡人から比呂の遺作一切と住んでいたアトリエと土地を譲られて管理してきた。定期的にその家と遺作を公開していて、私も一度拝見したことがある。また日経新聞に比呂のことを書いたことがあった。
 入江比呂はプロレタリア作家で、戦後「前衛美術会」の結成に加わった。それは当時のシュルレアリスムを超えた新しい造形と、同時に政治・社会の変革を求めた世界的に稀有な集団だった。入江の作品について門田が書いている。「白セメントに使い終わった工業部品や日用品を組み合わせて作る人体や動物は、ユーモラスで異風、見たこともない造形だった。社会変革への衰えない意志が伝わってきた」と。
 比呂の家を公開している期間中は、「白セメントは風雨に弱いので普段は家の中に保管してあるが、会期中だけは庭に出している」。それが入江比呂の意向だったという。比呂は作品を戸外に置いて、風雨にさらすのを望んだのだ。
 入江比呂、あまり知られていない戦後の前衛作家だ。私も門田の紹介で知った。この機会にこの会場を訪れて多くの人に比呂のことを知ってほしい。また数年前一度計画されていったんはご破算になった豊島区立美術館の建設がぜひ実現することを望む。


門田秀雄さんが紹介する入江比呂(2009年11月30日)

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「アトリエのときへ――10の小宇宙」
2018年2月6日(火)〜3月25日(日)
9:00−16:30(月曜と祝日、第3日指休館)無料
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豊島区立郷土資料館企画展示室
東京都豊島区西池袋2−37−4としま産業振興プラザ7階
電話03-3960-3177
http://www.city.toshima.lg.jp/128/museumgroup-exhibition-h29-0.html
池袋駅西口から徒歩7分。池袋消防署裏手