ギャルリ・プスの大坪美穂展−−沈黙の庭−−を見る

 東京銀座のギャルリ・プスで大坪美穂展−−沈黙の庭−−が開かれている(5月14日まで)。大坪は1968年に武蔵野美術大学油絵科を卒業している。今まで銀座のシロタ画廊やギャルリ・プスなど各地で個展を開いていて、韓国やインドのグループ展にも参加している。昨年はストライプハウスギャラリーで大きな個展を開いている。



 今回は天井から何百本もの糸を垂らしている。糸はよく見ると印刷物をこよりにして作ったものだ。具体的には新聞紙だという。無数の糸といえば思い出す展示があった。
 ひとつは15年ほど前にコバヤシ画廊で、またその数年前にギャラリーセンターポイントで見た川村直子の作品だ。川村はテグスを縦横に碁盤の目のように等間隔に張ってさらにそれを縦に何十層にも重ね合わせ、それらを縦糸ですべて結ぶ。その交差しているところに玉を付けている。糸が作る立方体がずっと向こうまで続いている。奥行きが途方もなく深く感じられてほとんど無限を出現させているかに見えた。

 もうひとつは菊元仁史の作品で、9年ほど前にexhibit LIVE & Morisでの個展で発表したものだ。奥行きがないように見える。空間があいまいになって溶解している。遠近法が混濁している。見る者は混乱してしまう。手前から奥に角材が並べられ、上部にも同じ角材が並んでいる。上の角材と下の角材をたくさんの垂直の針金が結んでいる。また針金と交互してたこ糸みたいな紐が上下を結んでいる。これを見ると、たくさんの針金と糸が重なってどうなっているのかよく分からない。深さというか奥行きがあいまいになってしまう。霧の中にいるように距離がつかめないのだ。菊元は立体作品から空間を消すことを意図している。

 川村と菊元は造形的な追求をしている。無限の空間を現出させたり、空間を消してしまったり。それらは造形的に見事なものだった。では大坪の作品は何か。DM葉書に大坪のテキストが書かれている。

あと戻りのできない時間
みえない霧、黒い雨
わたしたちにはどのような
未来が開けるのだろう

 川村や菊元と違い、3.11を経験した大坪はもはや造形的な追求に留まることはできない。ニュートラルに美のみを追究して事足れりとすることができない。日本に降りそそぐ雨に「黒い色」を透視している。それこそ作家の眼なのだろう。
 ほかにも小品が並べられていた。小箱に収められた小さな石ころのようなものは鉛に覆われた木の実だという。蜜蝋画や長い年月を経て古色を帯びたトレーシングペーパーを収めた小箱など、大坪の思考が辿れるようなオブジェが主展示を補完している。
 もっと大きな空間でこの数倍の糸の展示が見られたら、その迫力はいかばかりかと勝手な想像をしたのだった。
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大坪美穂展−−沈黙の庭−−
2016年5月6日(月)−5月14日(土)
12:00−18:30(最終日16:00まで)
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ギャルリ・プス
東京都中央区銀座5-14-16 銀座アビタシオン201
電話03-5565-3870
http://www011.upp.so-net.ne.jp/pousse/
東京メトロ 日比谷線・都営浅草線「東銀座」駅4番出口より徒歩2分