ツィンマーマンの「レクイエム」が素晴らしかった

 今年のサントリー芸術財団「サマーフェスティバル2015」ではツィンマーマンの「ある若き詩人のためのレクイエム」を聴いた。日本初演、素晴らしかった。現代音楽のコンサートではときどきこのような大当たりに出会うことがある。
 「ある若き詩人のためのレクイエム」はオーケストラのほかに、ナレーターが2人、ソプラノとバス独唱、3部の合唱、ジャズ・コンボ、オルガンで構成されるが、オーケストラはバイオリンとビオラが抜けている。高音部の弦を除いて低音部を充実させているという。合唱は舞台の後方と客席の後方、それに客席の左右両脇に位置している。
 歌われ、またナレーターによって朗読されるのは、ドイツ憲法ソ連の詩人マヤコフスキー、イギリスの作家ジェイムズ・ジョイス、哲学者のヴィトゲンシュタインのテキストであり、またテープで流される実際の演説はプラハの春ドプチェクであり、イギリスの首相チャーチル、ドイツのヒトラーゲッベルスソ連スターリンローマ法王毛沢東、『異邦人』のカミュなどで、これらの「声」はポリフォニックに重ねられ、その翻訳された文章も正面のスクリーンに半ば重なって上映される。さらにビートルズヴァーグナーベートーヴェンなどの音楽が引用される。
 合唱が美しく歌われるのはもちろんだが、重ねられたテープの演説も音楽にみごとに溶け合っている。最初から最後まで終始引き込まれていた。65分間の演奏だったが、もっともっと聴きつづけていたいと思った。実演でなければここまで感動しなかったかもしれない。
 ツィンマーマンは、この曲を作曲した翌年、うつ病で自殺したのだという。
 アンコールはないと思っていたら、ジャズ・コンボのスガダイロー・クインテットが即興演奏を聞かせてくれた。オーケストラは東京都交響楽団、指揮は大野和士だった。
 別の日にブルーローズ(小ホール)で公演されたシュトックハウゼンの「6人のヴォーカリストのためのシュティムング」は、申し込んだ時すでに切符は売り切れていた。残念!