『ウンベルト・エーコの小説講座』を読む

 『ウンベルト・エーコの小説講座』(筑摩書房)を読む。副題が「若き作家の告白」というもので、原題が「若き小説家の告白」とある。出版社と訳者がタイトルを変えたのは売るためだろう。それで内容と異なる題名になってしまった。
 エーコは『薔薇の名前』の著者、原作も映画もすごくヒットしたが私は映画しか見ていない。原作は長く家にあったが、家族たちが読んで面白かったと言っていた。映画も面白かったけど。
 本書は北米アトランタにあるエモリー大学での3回に渡る講義録と、いろいろな文学に現われた様々なリストから成っている。講義は、積極的な小説講座などではなくて、エーコが自分の創作方法を振り返るというものだ。どんな発想から数々の物語を書いたのかとか、経験的作者とモデル作者の意図とか。
 最後に半分近くの分量を占める「極私的リスト」が置かれている。エーコはリストが好きだと言って、世界文学の歴史に名を連ねるリストの最高傑作を列挙する。
 まずモーツァルトの『ドン・ジョバンニ』でドン・ジョバンニが誘惑した女たちのリスト。
イタリアでは640人
ドイツでは231人
フランスでは100人、トルコでは91人
しかしスペインではその数すでに1003人。
 ついで、『ガルガンチュワ物語』から膨大なリストを引用する。次にジョイズの『ユリシーズ』から、主人公ブルームが台所の棚の引き出しのなかに見つけたさまざまな物のリストが列挙される。またセリーヌソ連を罵倒している箇所のリスト。ディオゲネス・ラエルティオスによって作成されたテオプラストスの全著作リスト。これが5ページも続いている。
 グーグルで「リスト」というキーワードを検索すると、22億近いサイトが出てくると言う。リストに特に興味のない私にとって100ページ近くに渡るこれらリストの中で唯一興味が持てたのが、フーコーが『言葉と物』で引用しているボルヘスの創作したリストで、中国の百科事典『慈悲深き知識の宝庫』のなかの動物のリストだ。そこでは動物が次のように分類されている。

(a) 皇帝に属するもの、(b)バルサム香で防腐処理したもの、(c)訓練されたもの、(d)乳離れしていない仔豚、(e)人魚、(f)架空のもの、(g)はぐれ犬、(h)この分類に含まれているもの、(i)狂ったように震えているもの、(j)数えきれないもの、(k)ラクダの毛で作ったきわめて細い筆で描かれたもの、(l)その他、(m)つぼを壊したばかりのもの、(n)遠くからだとハエのように見えるもの。

 

あまり誰にでもお勧めできる本ではなかった。

 

 

ウンベルト・エーコの小説講座: 若き小説家の告白 (単行本)

ウンベルト・エーコの小説講座: 若き小説家の告白 (単行本)