ドナルド・キーン『日本文学史 近代現代篇五』(中公文庫)の「太宰治と無頼派」の項で、キーンが織田作之助について書いていた。
『堕落論』で知られる坂口安吾は、太宰ほど広く信奉者を持たなかったが、やはり同じ系統の読者達に受けた。織田作之助は、太宰や坂口に比べれば二流の作家だが、その作品のためというよりはむしろ破れかぶれとも見える短命な一生のために知られていて、大阪の庶民の生活を描いた数篇はいまだ読みつがれている。
無頼派と呼ばれる作家たちには太宰治、坂口安吾、織田作之助、檀一雄、田中英光、小山清らが数えられるが、私は太宰、安吾くらいしか読んだことがなかった。小山清は最近やっと1冊読んだばかりだが。キーンの評を読んで織田作を手に取ってみた。短篇集の『夫婦善哉』(新潮文庫)だ。
代表作とされる「夫婦善哉」は下手な小説だった。まるで粗筋を読んでいるみたいだった。これが巷で評判が良いのはおそらく映画化や舞台化されたことによるものだろう。人はそれにコテコテの大阪を見ているのに違いない。まだ「アド・バルーン」が読めるのは、主人公が一人称で語っているせいだろう。一人称で語れば、それは粗筋と似ているが粗筋ではなくなるのだ。
粗筋といえば、先頃亡くなった河野多恵子を思い出す。初期の作品で評判が良かったものがまるで粗筋だった。晩年川端康成文学賞を受賞した『半所有者』(新潮社)はわずか44ページの短篇を和本のように二つ折りにしたページで稼いで単行本仕立てにしたもの、短篇ひとつを単行本にするということで編集者と作家の意気込みが想像されたが、期待に反して詰まらない作だった。ネタバレになってしまうが、屍姦を仰々しく書いただけのものだった。
織田作について書きながら河野多恵子のことになってしまった。粗筋のような小説はつまらないということだ。

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