『女性画家10の叫び』を読んで

 堀尾真紀子『女性画家10の叫び』(岩波ジュニア新書)を読む。ジュニア新書、ヤングアダルト向けに少しやさしく書かれている。200ページの小さな本に10人の女性画家が、作品の特徴と簡単な生涯についてあわせて紹介されている。取り上げられた画家は、三岸節子小倉遊亀フリーダ・カーロレメディオス・バロニキ・ド・サンファル、ケーテ・コルヴィッツ、桂ゆき、いわさきちひろマリー・ローランサン、メアリ・カサットの10人。
 1人の画家についてほぼ20ページが充てられている。そんなに短い分量なのに、読み終わったとき、この10人の女性画家すべてに対する強い共感が生まれていた。さして興味のなかった三岸節子ニキ・ド・サンファルも、桂ゆきも、ローランサンも、こんなに重要な画家たちだとは知らなかった。
 みな女性としての困難に耐えて制作を続けている。困難な人生が作品になり優れた達成になっている。
 小倉遊亀は105歳まで生きている。102歳のときに院展に「マンゴウ」と題する10号ほどの作品を出品している。だが、97歳のときに息子を亡くしてからそれまでの5年ほど描かない空白があったと堀尾が書く。「(息子の)通夜の時、遊亀は声を上げてぼろぼろ涙をこぼし、葬儀では、じっと棺を見つめ続け、一言も発しなかったといいます」。
 フリーダ・カーロは6歳のとき小児麻痺で足が不自由になり、18歳のとき交通事故で脊椎と骨盤、足を骨折し、鉄パイプが腹部から子宮を貫通した。結婚したディエゴ・リベラは何度も彼女を裏切る。血みどろの自画像はまさに彼女そのものなのだ。
 レメディオス・バロのことは本書で初めて知った。スペインに生まれ、パリへ移ってシュルレアリスムのグループに入り、フランコのスペインを避けてメキシコに渡る。戦後初めての個展で大成功を収めたものの、2回目の個展が終わって1年もしない1963年、心臓発作で亡くなってしまう。55歳だった。
 ケーテ・コルヴィッツについては、55年前にわが師山本弘から教わっていたが、こんなに詳しい伝記は知らなかった。ケーテは愛する息子ペーターも孫のペーターも戦争で失ってしまう。さらにヒトラーは、ケーテに画家としての芸術活動まで禁じてしまう。1945年4月、78歳のケーテは亡くなる、第2次大戦終結を見ることなく。

(……)しかし最後を看取った孫娘ユッタに、ケーテは次の言葉を残しています。
「あなたのいう通り、戦争がなくなったとしても、誰かがそれをまた発明するかもしれないし、誰かが新しい戦争をやり出すかもしれません。いままで長い間そうやってきたように。しかしいつかは新しい思想が生まれるでしょう。そして一切の戦争を根だやしにするでしょう。(中略ママ)このような確信のうちにわたしは死にます。そのためには、人は非常な努力を払わなければなりません。しかし必ず目的を達します。平和主義を単なる反戦と考えてはなりません。それは一つの新しい思想、人類を同胞としてみるところの理想なのです」

 ひとりの画家について、本書は20ページしか充てられていない。そんな少ないページでもって、10人すべての画家のことをこんなに印象強く紹介している。各画家に対する堀尾の深い理解と本質をすくい取る優れた描写力にただただ脱帽する。ジュニア新書に分類されているが、美術に興味がある人、女性問題に興味がある人の必読書ではないだろうか。


女性画家 10の叫び (岩波ジュニア新書)

女性画家 10の叫び (岩波ジュニア新書)