「NHKスペシャル・草間彌生」を見る

 9月28日夜、「NHKスペシャル草間彌生」が放映された。NHKが今年の冬あたりから草間を取材して、イギリスのテイト・モダンでの大規模な回顧展までを追いかけている。
 草間はテイト・モダンでの展覧会に向けて100点の大きな絵画を制作している。その制作過程をカメラが追っている。ぐじゃぐじゃと線が描かれた抽象的なそれらの作品が良いとは思えなかった。昔から草間の作品をどのように評価してよいのか分からなかった。
 草間の回顧展は日本では何度も見ている。「無限と反復」と題された網の目や水玉模様がどうしても優れた作品とは思えなかった。布のようなもので作られたペニスに似せたオブジェに覆われた舟や家具などの作品を見ても、思春期の草間の性的な精神的外傷が具現化されているとは想像できるものの、それが作品として傑出しているとはこれまた思えなかった。

 今回テイト・モダンでの草間を迎えてのレセプションが撮影されていた。その会場には最新作が日本の公募展会場のように3段掛けで展示されていた。それを見て初めて草間の作品を美しいと思った。草間の作品とは、このような100号のキャンバスの集合が優れた1点の作品なのかも知れない。個々の作品は大きな集合作品の一部分をなすもの、「要素」なのかもしれない。セザンヌの筆触はそれだけでも美しいが、ヴィクトワール山を構成する一要素であるように。
 また草間の作品はアボリジニー絵画を想い出させた。両者に共通するのは知性が関与しないような感覚のみによって成り立っていることと、まさに「無限と反復」なのだった。それはセザンヌのような意識的な画家の方法論とは正反対のものなのだった。
 さらに草間の作品は谷口ナツコを想い出させたのだった。谷口は草間の系譜の画家だったのか。
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ギャラリーテオで谷口ナツコ展が始まった(2008年3月22日)