柳瀬尚紀「日本語ほど面白いものはない」(新潮社)を読む。副題を「邑智(おおち)小学校6年1組 特別授業」と言い、英文学者の柳瀬尚紀が島根県の小学校で授業をした記録だ。
毎日新聞2010年12月19日に掲載された「2010年この3冊」で科学史家の村上陽一郎が取り上げた3冊の内の1冊で、大いに期待して読んだのだった。村上の推薦文を掲げる。
●柳瀬尚紀「日本語ほど面白いものはない」(新潮社)
これは異色の書物。著者が地方の小学生を相手に、日本語を巡る授業を重ねた記録だが、読者にとっても著者の授業は、奇想天外な漢字の紹介もあって、仰天するほど面白いし、そのうえ、子どもたちと担任の先生と著者の切り結びが、時に涙腺を刺激するまでに秀逸。こどもが育つ原点を示してくれる。
これがあまり面白くなかった。村上陽一郎はNHKテレビで放送している「ようこそ先輩」を見たことがないのだろうか。有名人が自分の出身小学校で授業をする番組だ。この番組では毎回ではないが、しばしば素晴らしい授業風景が紹介される。成功した授業が必ずしも優れた文化人が先生をした時ではなく、むしろお笑いタレントの時だったりする。ロンドンブーツの一人が先生をやった回は感動的だった。
柳瀬の授業でも子どもたちが感激しているのは嘘ではないと思う。柳瀬本人も面白がっている。だが、授業の内容が本にして紹介するほどの面白さではないのだ。
昔、「ようこそ先輩」の前の番組で、児童文学者の椋鳩十が出身中学の喬木中学校で国語の授業をして、それがNHKで放映されたとき、中学教師をしていた友人が、授業はあんなものじゃない、あれでは子どもたちが付いてこないと批判していた。有名人の特別授業なので成り立つハレの部分もあるのだろう。
出勤時に読み始めて会社の昼休みに読み終わった。私の読み方が早いのではなく、内容が軽いのだ。その反対に石川淳の「文学大概」(中公文庫)では読み終えるのに5日もかかっている。難しかったのだ。速読術というのがあるが、ハイデガーの「存在と時間」を速読することができるのだろうか。理解力が追いつかないのではないか。
そんなわけで、これは柳瀬尚紀にではなく、村上陽一郎に少しだけ苦言を呈したのだった。
- 作者: 柳瀬尚紀
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/11
- メディア: 単行本
- クリック: 23回
- この商品を含むブログ (14件) を見る