森ビルと旧丸ビル

 港区を中心に森ビルはたくさんの貸しビルを作ってきた。その集大成が六本木のアークヒルズだろう。私が知っているのは第32森ビルまでだったけど、今は何番まで付いているのか。作った順に番号が付けられたようなのだ。
 私の勤めた会社も一時期第9森ビルに事務所を置いていた。古いNHKのある愛宕山の北側だ。愛宕山といえば曲垣平九郎。急な男坂の石段を馬で駆け上がり梅の花を折り採ってきたという。本当だろうかと疑うような急な石段なのだ。
 森ビルは貸しビルのプロなので合理化が徹底していた。第9森ビルは古いビルなのに熱効率を考えて窓は二重だった。長い管理期間の費用を考えれば窓を二重にする初期投資は安いものなのだろう。一度全フロアのトイレットペーパーのホルダーを交換したことがあった。特別直径の大きいトイレットペーパーに変更し、そのためトイレの壁を削る工事までしたのだ。常にシビアに経済効率を考えていることが伺われた。その結果が港区の大きな再開発で、アークヒルズに結晶したのだろう。
 旧丸ビルのテナントに勤めていた人が、ドアノブがもの凄く優れていると教えてくれた。丸ビルができてから何十年もたつのに全くガタがこないという。だから自宅を造ったときその外国メーカーのドアノブを取り寄せたんだ。
 第9森ビルから移ったビルは新築のビルだったのに初期投資にあまりお金をかけていなかったようで、窓は1枚ガラスだったし、ドアノブはすぐにガタがきた。そのことから森ビルと丸ビルのことを思い出したのだった。
 霞ヶ関ビルからシオサイトのビルに移った人が、霞ヶ関ビルに比べて壁が薄くてちゃちな感じだと言う。霞ヶ関ビルは初めての超高層ビルだったので、必要以上にがっちり作ったということだろうか。