宮内勝典は佐原次郎だった

 昔、日本読書新聞という週刊の書評紙があった。その新聞の別冊という形で「ドミュニケーション」というこれは月刊だったかの新聞が創刊された。もう35年ほど前ではないか。そこに佐原次郎というアメリカ在住らしい若い人が「アメリアメリカ」とかいうエッセイを連載し始めた。文体が優れていて、この人はきっと文筆家として成功するだろうと確信した。それで、それらのエッセイをスクラップした。
 それから何年かして宮内勝典グリニッジの光りを離れて」という小説が発行された。現在優れた若い画家を見つけるのを趣味にしているように、当時は優れた若い作家を見つけるのを趣味にしていた。有望と思われる作家はチェックしていた。「グリニッジを〜」の中に、佐原次郎のエッセイと同じ文章を見つけた。宮内勝典はあの佐原次郎だった。自分の先見の明に自信を持ったのだった。