伊達得夫『詩人たち ユリイカ抄』を読む

 このところ詩人たちに関する本を読んでいる。平林敏彦『戦中戦後 詩的時代の証言 1935-1955』(思潮社)、田村隆一『若い荒地』(講談社文芸文庫)、小田久郎『戦後詩壇私史』(新潮社)と読んできた。続いて伊達得夫『詩人たち ユリイカ抄』(平凡社ライブラリー)を読んだ。伊達は書肆ユリイカを設立し詩の雑誌『ユリイカ』を発行した。現在の『ユリイカ』はいったん廃刊したものを青土社が再興したものだ。本書『詩人たち ユリイカ抄』は伊達が亡くなったあと、友人たちが追悼のために伊達が書き残した文章を集めて作ったものだという。短いエッセイが26編、童話が3編、その童話の1編はたった2ページの未完のものだ。全体の構成や題名は生前刊行される企てがあったときに伊達自身が考えたものだという。
 伊達は1920年に朝鮮の釜山で生まれ、京都大学経済学部を卒業して、1948年に書肆ユリイカを創設した。原口統三の『二十歳のエチュード』を発行して、以後詩書の出版に力を入れていく。1956年、詩誌『ユリイカ』を創刊する。戦後詩がここから数多く生み出されていった。しかし1961年、伊達の死とともに『ユリイカ』も終刊する。負債が多く出版社を存続させることはできなかった。
 伊達は詩書の出版社主として優れた業績を残している。本書は伊達の死後第1回歴程賞を受賞した。しかし、詩を書く希望も持っていたという伊達のエッセイはあまりおもしろいものではない。社主ではあっても作家ではなかった。『戦後詩壇私史』を書いた小田久郎のように、詩壇を回顧する、詩壇の歴史を記録するという強い動機があるわけではなかった伊達のエッセイは内容的にも不十分だ。
 ただ本書は伊達の追悼集ということで、巻末に書肆ユリイカの刊行図書目録、雑誌「ユリイカ」目録、執筆者内容一覧、執筆者内容一覧以外の項目、同人雑誌目録が50ページにわたって掲載されている。友人たちが編集したこの部分に一番の価値があるのかもしれない。


詩人たちユリイカ抄 (平凡社ライブラリー (558))

詩人たちユリイカ抄 (平凡社ライブラリー (558))