新人アーティストへの吉岡まさみの教え

 吉岡まさみは銀座のSteps ギャラリーのオーナーである。同時に美術作家であり、美術評論家でもある。その3役を通じて、新人アーティストにアドバイスをしている。「ギャラリーの言い分」と題されたそれは、A4判12ページに及ぶ長いものだ。ここにその要約を紹介する。全文はStepsギャラリーの吉岡に依頼すれば分けてくれるはずだ。

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◆ギャラリーとは何か

 ギャラリーは作品を売るところである。美術館は作品は売らないが入場料を取る。ギャラリーは入場料は取らないが作品を売るのである。ギャラリーは作品を売って生活している。ギャラリーのお客さんとは作品を買う人のことである。作品を買わないで見に来るだけの人は正確には見学者である。

◆なぜ個展をするのか

 ギャラリーにとっては作品を売ることが一番の目的だが、作家にとっては新作を発表しいろんな人に見てもらい、高い評価を得たいというのが大事なのだろう。しかし大事なのは「誰が」評価してくれるかだ。どうでもいい人に「いいね」と言ってもらっても大した意味はない。作品を買ってくれるのが本当の「いいね」である。

◆個展の案内状と略歴

 案内状(DM)をハガキで作るときの注意事項。葉書の表裏は宛名面を表という。横位置と縦位置では表裏を同じにして揃えること。宛名面に日本語で、裏面に英語を使うのが一般的だ。そのDMが海外に渡ることも考えてのことだ。名前を英語表記する場合は、苗字・名前の順で書く。「吉岡まさみ展」の「展」は不要。

 略歴の書き方は、生年:1956 山形生まれ というふうに書く。過去の展覧会場の所在地は、たとえば、Art Cocktail 2021(Steps Gallery/東京)と書く。東京・銀座と書く必要はない。

 作品データは、タイトル、素材、サイズ、制作年、価格など。ギャラリーがキャプションを作成するときに必要になる。絵画作品の場合は作品を完成させたら必ずサインをしてほしい。

 サイズは、平面作品の場合は、縦×横で表示する。立体の場合は縦×横×高さ、あるいは縦×横×奥行きである。長さの単位はセンチかインチで。「50号」と表記する人がいるが、一般の人にはわかりにくいし縦位置か横位置かもわからないので、美術関係者の符牒くらいに考えた方がいい。

 制作年は必ず書いておいてもらいたい。

 

 次に展示について

◆テリトリー

 テリトリーとは作品と作品の距離のこと。ソーシャルディスタンスと置き換えてもいい。「作品と作品の間にはソーシャルディスタンスが必要です」と。「強い」作品はテリトリーが広く、「弱い」作品はテリトリーが狭いものである。

◆グルーピング

 学校の生徒の作品を展示する時など、100枚の絵を壁一面に展示することになる。普通縦横均等に格子状に配置することが多いが、これだと見る方としては途中で飽きてしまう。グルーピングという方法では、縦10枚、横10枚に並べた作品の真ん中の縦1列と横1列を全部外してしまう。こうすると、4つの島、グループができることになる。観客は一つの島から次の島へ行く途中でちょっとした休憩をとることができ見やすくなる。

◆高さとリズム

 絵を壁に掛けるときの高さは、現在は「低めに」展示するのが主流であるようだ。

 同じサイズの作品をたくさん並べるときに高さを揃えるのが普通である。高さを揃える場合すべて水平にし、隣同士の作品の高さを1ミリも違わないようにすることが肝心なのだ。

 しかし、同じサイズの作品を10枚、20枚と並べるときには、高さを全部揃えない方がいいような気がする。四角の部屋の四つの壁面に全部同じ高さに展示すると、窮屈だし飽きがくる。途中の何点かを抜いてグループを作ったり、壁ごと、グループごとに高さを微妙に変えていく。

 ◆キャプションをどこにつけるか

 キャプションは作品の右下か右横、あるいは左下か左横につける。右側か左側かを決めるのは会場の造りである。会場が左回りの導線ならキャプションは左側につける。キャプションの高さは作品に関係なく同じにする。

◆壁を見せる

 上手い展示をしようと思ったら、壁をきれいに見せる。具体的には作品と作品の間に通路を作る。観客は作品を注視しているだけではなく、白い壁の上にも視線を走らせている。大通りや小道を配して変化をつける。

 

 「プロになる」の補遺

 

◆作家としての「勉強」

① 本を読む

 美術に関する本とか美術史を読む。その他面白そうだと思ったら何でも読む。必ずいつか役に立つ。

② 個展をする

 個展をする以上に勉強になることはない。

 

 (以上、要約終り)

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Stepsギャラリー

東京都中央区銀座4-4-13琉映ビル5F

電話03-6228-6195

http://www.stepsgallery.org