アレン・ギンズバーグ/柴田元幸 訳『吠える その他の詩』を読む

 アレン・ギンズバーグ柴田元幸 訳『吠える その他の詩』(スイッチ・パブリッシング)を読む。『吠える』は50年前に諏訪優の訳で思潮社から出版されていた。ビート・ジェネレーションとかビート族、当時のふうてんたちにとってバイブルだった。周りの友だちも夢中になった。それが50年ぶりに新訳が出た。これは読まずばなるまい。

 「吠える」は長編詩で、20ページにわたって饒舌に語り続けられる。まず柴田の新訳からその一部を、

 

ぼくは見た ぼくの世代の最良の精神たちが 狂気に破壊されたのを 飢えてヒステリーで裸で、

わが身を引きずり ニグロの街並を夜明けに抜けて 怒りの麻薬を探し、

天使の頭をしたヒップスターたちが 夜の機械のなか 星のダイナモへの いにしえの天なる繋がりに焦がれ、

貧乏で襤褸でうつろな目でハイで 水しか出ないアパートの超自然の闇で 煙を喫って夜を過ごし 都市のてっぺんをふわふわ超えながらジャズを想い、

高架の下で脳味噌を天にさらし モハメッドの天使たちがよろよろ 光を浴びた長屋の屋上を歩くのを見て、

輝くクールな目で 方々の大学を通り抜け 戦争学者たちのただなか アーカンソーと ブレイクの光の悲劇を幻視し、

狂気ゆえ そして 頭蓋骨の窓に卑猥な詩を出版したゆえに 学界からも追放されて、ひげも剃っていない部屋に 下着姿で縮こまり 屑カゴで金を燃やし 壁ごしに恐怖に聴き入り、

陰毛のあごひげ姿で ラレード経由 ニューヨークへの土産のマリワナを腰に巻いて 帰ってきたところを逮捕され、

ペンキホテルで火を食うか パラダイスアレーでテレピン油を飲むかして 死か 夜ごとおのれの胴を煉獄へ追いやるかし

夢で ドラッグで 目覚めた悪夢で アルコールとペニスと無限の睾丸で、(後略)

 

 ついで諏訪優の翻訳から、

 

僕は見た 狂気によって破壊された僕の世代の最良の精神たちを 飢え 苛ら立ち 裸で夜明けの黒人街を腹立たしい一服の薬(ヤク)を求めて のろのろ歩いてゆくのを

夜の機械の 星々のダイナモとの 古代からの神聖な関係を憧れてしきりに求めている天使の頭をしたヒップスターたち

 

  以上、「吠える」の冒頭だが、次に飛んじゃってる箇所を、柴田の翻訳で、

 

朝に夕に性交し バラ園で公園の芝生で墓地で 来る人誰にでも惜しげなくザーメンをふりまき、

クスクス笑おうとはてしなくしゃっくりをくり返したが 結局トルコ風呂の仕切りの陰ですすり泣いていると 金髪で裸の天使が剣を貫きに来て、

愛の少年たちを 運命の三老婆に奪われ ひとりは両性愛のドルの片目の女 ひとりは子宮からウインクを送ってよこす片目の女 ひとりはただ座って職人の機織りの知性の金糸をぷつぷつ切るばかりの片目の女で、

ビール瓶 恋人 煙草の箱 蝋燭で 恍惚かつ貪欲に交接し ベッドから落ちて 床でも続け廊下でも続け やがて究極のおまんことオーガズムの幻を得て壁で失神し 意識の最後の精液を回避し、

 

  50年前に夢中になったビートニクの詩に、70歳を超えた老人が共感できるかと半ば躊躇しながら手に取ったが、いっぺんにあの頃の情熱を思い出した。ギンズバーグ最高!

 

 

 

【新訳】吠える その他の詩 (SWITCH LIBRARY)

【新訳】吠える その他の詩 (SWITCH LIBRARY)