ハメット『マルタの鷹』〜ギンズバーグ「カディッシ 抄」

 ダシール・ハメット『マルタの鷹』(ハヤカワ文庫)を45年ぶりくらいに読む。何も憶えていなかったので十分楽しめた。原書が発行されたのが1930年で、当時こんな複雑なハードボイルドが書かれていたことに驚いた。
 訳者の小鷹信光の解説が興味深かった。それによれば、ハメットは1937年(?)にアメリ共産党に入党(?)し、戦後の1951年に下院非米活動調査委員会の査問会に召喚され、証言を拒否し、法廷侮辱罪に問われて6カ月間服役したという。いわゆるレッド・パージ、赤狩りの犠牲になったのだった。
 レッド・パージでは、査問を逃れてチャップリンがイギリスに移住し、エリア・カザンは仲間を売って保身を図った。
 アメリ共産党に入党といえばビートニクの詩人ギンズバーグの母親ナオミもそうだった。ギンズバーグが亡くなった母親のナオミを悼んだ詩「カディッシ 抄」より、

   IV


おゝ かあさんよ
忘れられようか
おゝ かあさんよ
忘れられようか
おゝ かあさんよ
さようなら
長い黒靴をはいたかあさんよ
さようなら
共産党員で 破れたくつ下をはいていたかあさんよ
さようなら
かあさんの胸のコブに生えていた7本の毛よ
さようなら
古いドレス そしてアソコに生えていた長い陰毛 かあさんよ
さようなら
かあさんのたるんだ腹
かあさんのヒトラー嫌い
下手な短篇小説を話すかあさんの口
おんボロのマンドリンを弾くかあさんの指
ゆたかな パタースンのポーチでのかあさんの腕
ストライキか煙突みたいだったかあさんの腹
トロツキーとスペイン戦争についてのかあさんのおしゃべり
衰えゆく あわれな労働者のために唄うかあさんの声
不格好な そしてニューアークのつけ物の匂いのしたかあさんの鼻
かあさんの目
かあさんのロシアの目よ
かあさんの一文なしの目よ
(中略)
死に襲われたかあさんの目よ
孤独なかあさんの目よ
かあさんの目よ
かあさんの目よ
そして 花々に満ちあふれたかあさんの死よ

 ハメットの『マルタの鷹』から、ギンズバーグの「カディッシ 抄」まできてしまった。


マルタの鷹〔改訳決定版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

マルタの鷹〔改訳決定版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ギンズバーグ詩集

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