佐藤万絵子展「窓枠を押しつぶせ空」を見る

 東京銀座のなびす画廊で佐藤万絵子展「窓枠を押しつぶせ空」が開かれている(8月6日まで)。「画廊からの発言−新世代への視点2016」でなびす画廊が選んだ作家が佐藤万絵子だ。佐藤は1975年、秋田県生まれ。1998年に武蔵野美術大学油絵学科を卒業し、2000年に同大学大学院造形研究科美術専攻油絵コースを修了している。2001年にOギャラリーTOP・Sで初個展、以来スペースKobo & TomoやαMプロジェクトのASK?、ARATANIURANOなど十数回の個展を行い、今年もアサヒ・アートスクエアで大きな個展を行った。
 私は佐藤の熱心な観客ではなかったが、それでも何回かは個展やグループ展を見てきた。





 さて、なびす画廊に足を踏み入れると、目の前に拡がっているのは何だろう。ギャラリー一杯に何だか片付けられていないような乱雑な風景が拡がっている。しかし、これが佐藤のいつもの展示なのだ。描き殴ったような、絵具で汚れたような紙が散らかり、机や家具らしきものが無秩序に投げ出されている。まるで制作途中のアトリエのようでもある。
 まずこれは佐藤のインスタレーションだ。ある空間に合わせて制作し仮設した立体作品。ところが普通のインスタレーションははっきり秩序を見せている。佐藤の作品には一見明確な秩序が感じられない。完成形にはほど遠いと思われる。この無秩序さは何なのか。
 おそらく佐藤はインスタレーションで、ある種の抽象的作品を制作しているのではないだろうか。実はよく見ればそれほど無秩序ではないようだ。タイトルが「窓枠を押しつぶせ空」だった。カタログに書かれた佐藤の言葉を引く。

書き続けた机から顔をあげて見えたセルリアンブルーに、輪郭はなかった。窓枠を押しつぶすようにして、部屋の中に入り込んでくる空。はみ出してくる空を抑え込み、景色にしようとする窓枠。空は窓枠にのしかかる。立ち続ける窓枠の脚力。彼らの呼気を受けとめる、柔らかな風穴が開く。そこは空が、触れる青でいるところ。

 会場には窓枠らしき細い鉄棒が矩形を作っている。殴り描きされたような紙は青が目立つ。これらは「空が、触れる青でいるところ」なのか。
 最初に無秩序に見えた空間が、気づけば美しく見えてくる。抽象絵画が美しいように、抽象的なインスタレーションがあるのだ。そして、この空間が佐藤万絵子の絵画なのだろう。とても良い作品だった。
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佐藤万絵子展「窓枠を押しつぶせ空」
2016年7月25日(月)−8月6日(土)日曜休廊
11:30−19:00(最終日−17:00まで)
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なびす画廊
東京都中央区銀座1-5-2 ギンザファーストビル3F
電話03-3561-3544
http://www.nabis-g.com