府中市美術館の前庭に鉄の彫刻作品が設置されている。そばに金属のプレートが付随していて、そこに下記のように書かれている。
地下のデイジー
若林奮
DAISY UNDERGROUND
WAKABAYASHI ISAMU
2002(平成14)年 鉄 120×120×312.5cm
「デイジーDaisy」とは「ひなぎく」のこと。野生の花の可憐さと、植物としての力強い生命感を表現した若林奮のシリーズの一つです。
この鉄の正方形は、地下深くまで埋められた彫刻作品です。1枚72kg、厚さ2.5センチの鉄板が約120枚も積み重ねられて層になり、約3メートルの深さにまで及んでいます。鉄板の層は多摩・武蔵野地区に暮らした人々の時間と記憶を表現し、地下の関東ローム層の地面や樹木の年輪などの「自然」の時間層と対応するものです。埋められた彫刻の時間を想像することで、地域の歴史や記憶と自然の姿が浮かび上がってきます。
厚さ2.5センチの鉄板が約120枚積み重ねられている。地上部には3枚の鉄板が顔を出している。作品のタイトルを《地下のデイジー》という。これについて、美術館で用意された「彫刻ガイド」に次のように説明されている。
……デイジー、すなわち雛菊はキク科の植物で、春から秋にかけて10センチほどの茎の頭に花びらを開かせます。《地下のデイジー》の8センチほどの地上部には、円状に12個の穴が開けられていて、デイジーの花弁のようにも見えます。これらの穴は、上から4枚目、ちょうど地表と同じレベルにある120センチ四方の鉄板まで貫通していて、雨水はそこから地中に抜けるようになっています。また鉄は、酸化して錆びる性質を持っており、呼吸しているとも捉えることができます。《地下のデイジー》も、植物のデイジーのように、雨水を吸い、大気を吸って生きているかのようです。
《地下のデイジー》は、私たちの想像力に働きかけて、植物と大気、土地のエネルギーや記憶を引き出す、ひとつの装置とも見えてこないでしょうか。